星に願いを

【あらすじ】

今年も流星群の季節がやってきた。夜空を彩る天体ショーは、

 昔から願いを叶えると信じられてきた。その確証でもあるのが、

 太陽系を守る為の組織の流星観測科もとい、「流れ星願い叶え隊」である。

 今日も彼らは流れ星に願いをかけた星の中から、厳正なる抽選によって

 願いを叶えていくのだ。

 その抽選結果は、日本のある小さな村に届いた。

 一方、村では昔からの風習によって祭りが行われようとしていた。

 願いと風習。それぞれの思惑が星を導く__

【登場人物】

 

  流れ星願い叶え隊

 

 ・北斗(ホクト)   隊長。真顔が特徴。日本語は漫画やアニメで覚えている

 ・昴 (スバル)   隊員。さわやか担当。インスタントコーヒーが好き。

 ・赤星(アカボシ)  隊員。最年少。子ども扱いすると怒る。

 

  村の人々

 

 ・粟島誠一(アワジマセーイチ) 村人。ある願いを抱えている。

 ・粟島サヨ(アワジマサヨ)   セーイチの妻。目と耳が悪い。

 ・村長            セーイチよりもかなり年老いた老人。

 ・村人1

 ・村人2

 ・村人3

 ・村人4

 ・村人5

 

 【備考】

 ・村人の訛りは観客の土地にあったものや、演者に所縁のあるものが望ましい。

  そのため、台詞の改変は自由に行ってもよい

【本文】

 

 辺りは暗く、プラネタリウムの様な星の明かりが点々とした景色が観客の目に映る

 オルゴールが流れ、星が時間とともにゆっくり動いていく

 

 (ナレーション)「…8月の空は夏の大三角形を始め、天の川や比較的星座が見つけやすい

 季節といえます。今年は特にペルセウス座流星群も確認でき、夏の夜空を鮮やかに彩るでしょう。日本の原風景とともに流れる、自然の音とともにしばらくお楽しみください…」

 

 クロスフェードするようにラジオのノイズ音が入ってくる

 

 昴  「アー、アー、聞こえますか?こちらスバル。流星群の軌道を確認。アンテナを

     受信モードに移行します」

 北斗 「了解。電波の受信容量を最大値まで引き上げてくれ」

 昴  「了解」

 北斗 「アカボシ、地上はどうだ?」

 赤星 「こちらアカボシ。天候は良好。大気の状態も安定しています。相変わらず

     オゾンは薄いですが…」

 北斗 「了解。引き続き観測とワープ地点の確保を頼む」

 赤星 「了解」

 

 ノイズが強くなり、テレビのニュース映像が音声だけ流れる

 

 (ニュースキャスター)「さて、次のニュースです。夏の夜空に天体ショー、今夜10時頃

           が見頃のペルセウス座流星群。多いところでは一時間に30個か   

           ら60個も確認できます。流星群の中でも比較的見やすく、今年

 は天候にも恵まれ、肉眼ではっきりと見えるとのこと。

 今夜はロマンティックな星空を家族とともに過ごしてはいかがで

 しょうか?続いて、来週の天気予報です…」

  

 テレビを見る老人。窓の外を見る

 

 赤星 「流星群を確認!空気中の酸素濃度から発火現象を目視できます」

 北斗 「了解。アンテナの電波強度は?」

 昴  「ちゃんと耐えてますよ。受信数もなかなかです」

 赤星 「今年もまた、『カネカネカネ』ですかね」

 昴  「まったく。ロマンがないよね」

 北斗 「…私たちが決めることじゃないさ」

 

 宇宙船の中。中央には投票箱の様な物が置いてある

 簡易な袋(星入り)を抱えた昴が戻ってくる

 

 昴  「(箱に星を入れながら)はい、入れますよ~」

 赤星 「いよいよですね」

 北斗 「では、引くぞ」

 

 ドラムロールとともに北斗が引き当てる

 覗き込む昴と赤星

 

 昴  「…何て書いてありました?」

 北斗 「プロ…ポー、ズ…?」

 赤星 「プロ?…何です?」

 北斗 「プロポーズ…求愛行動というヤツだな」

 昴  「ヒュ~ッ」

 赤星 「…で、差出人は?」

 

 北斗が口を開けた瞬間に照明F.O

 

 テレビを見る老人の風景に戻る

 

 サヨ 「セーイチさん、セーイチさんはどこに行ったのかしら。セーイチさーん!」

 誠一 「ばーさん、わしはここじゃあ」

 サヨ 「セーイチさん」

 誠一 「ここじゃて!」

 サヨ 「セーイチさーん!」

 誠一 「ばーさん…」

 サヨ 「あらセーイチさん、こんなところにいたのね」

 誠一 「ああ、今戻ったわい」

 サヨ 「ごめんなさいねぇ。よく見えないんです」

 誠一 「わがったわがった」

 サヨ 「先に寝ますからね」

 

 寝室へ向かうサヨ

 こっそりと外へ出ていく誠一

 

 村の集落

 

 赤星 「ここですか」

 昴  「この近くで合ってるはずだよ」

 赤星 「あ、第一地球人発見!」

 村人1「なんだおめぇら」

 赤星 「ポルペゴバダバダ」

 村人1「は?」

 昴  「スプ!オペペケルサンダバサ!」

 村人1「お、おっぺけぺー?」

 昴  「ワタシ ヒト サガス」

 村人1「あんれ、外人さんかい?」

 昴  「サガス ナマエ アワシマセーイチ」

 赤星 「アワシマセーイチ!」

 村人1「アワシマ…?いんや、聞いたことねぇな。あー。ノー!ノー!いない!ダメ!」

 赤星 「ムブブリュムクインツググ」

 昴  「ベンダ。アリガトゴザマーシタ、ゴキゲンヨウ」

 村人1「あ、ああ気にすんな。へばな」

 

 昴と赤星が去っていく

 村人に人が集まってくる

 

 村人2「なんだいありゃ?」

 村人1「わがんね」

 村人3「粟島んとこさ探してたな」

 村人4「粟島さんて、裏山に住んでる人でしょ?」

 村人5「回覧板回すときぐらいしか顔見ねえしな」

 村人3「どうする?粟島に言っとくか?」

 村人1「いんや、よぐわがんねぇけど、触らぬ神に祟りなしだ」

 村人2「んだな。くわばらくわばら…」

 

 村人たちが去っていく

 茂みから顔を出す昴と赤星

 

 赤星 「なにコソコソ話していたんでしょう」

 昴  「わからん」

 赤星 「北斗隊長は…?」

 昴  「隊長は単独行動だ。もしかしたら既に…」

 北斗 「既に、何だ?」

 2人 「うわっ!」

 昴  「隊長…」

 赤星 「何ですかその恰好」

 北斗 「郷に入っては郷に従え、だ。…で、近隣住民からの情報は?」

 赤星 「あまりいい雰囲気ではなさそうでした」

 昴  「それは赤星隊員が母国語で話そうとするから…」

 赤星 「隊長はターゲットに接触したんですか?」

 北斗 「ああ」

 赤星 「さっすが隊長」

 北斗 「あの山の裏に家がある」

 誠一 「あの、どちらさんですかね」

 3人 「うわっ!」

 誠一 「あ、あんたがこの村に越してきた北斗くん?」

 北斗 「ああ。どうも初めまして」

 誠一 「そちらの二人は?」

 北斗 「ええと…親戚の甥っ子たちです。ほら、あいさつなさい」

 昴  「ヨロスクオネゲシマース」

 赤星 「オネゲシマース」

 誠一 「ん、まぁ立ち話もなんだ。お茶でも飲んできな」

 北斗 「では、お言葉に甘えて」

 赤星 「(シンセキってなんですか?)」

 昴  「(同じ血の繋がりがあるものの意味だったような気がする)」

 赤星 「(ヒュ~ッ)」

 

 その様子をこっそりと見る村人たち

 

 村人5「入ってったな」

 村人3「あんれ、この前越してきた北斗って若えやつもいる」

 村人1「知り合いだったんかい?」

 村人3「あの様子じゃ知り合いだんば」

 村人5「よそのもん連れて何しだすんだか」

 村長 「おめえたち何してんだ?」

 3人 「うわっ!」

 村人1「村長!」

 村長 「こんな時間から覗きかぁ?」

 村人5「監視ですよ監視!」

 村長 「どうだか」

 村人3「だってあやしくないですか?越してきて早々外人を連れてくるなんて」

 村長 「親戚かなんかじゃろ」

 村人1「…粟島んとこ探してた。おらに直接聞いてきただよ」

 村長 「知り合いじゃろ」

 村人5「そんでもって着いていっちまっただ」

 村長 「まぎれもなく知り合いじゃろ」

 村人1「…村長」

 村長 「おめえたちが気にすることじゃねぇって。さっさと持ち場に戻んない」

 

 粟島の家

 出された麦茶に奇妙な反応をする昴と赤星

 

 誠一 「日本のお茶は初めてかい?」

 北斗 「ええ。コーヒーばっかりでしたから。いい経験になります」

 誠一 「それはよかった」

 北斗 「いやあ助かりました。まだこの土地に慣れなくてフラフラしていたんです」

 誠一 「まあ、ここは人が少ねぇぶん土地だけは広いから。何もないところだよ」

 北斗 「何もない…?」

 誠一 「だってそうだろう。君たち若いもんがすすんで暮らすような土地じゃないさ」

 北斗 「そんなことありません。ここには変わらぬ状態で星が見えます!」

 誠一 「…」

 北斗 「あ、すみません。以前天文台で仕事をしていたもので…」

 誠一 「気にすんな。ひとの趣味なんてそれぞれだ」

 北斗 「そう、ですね…」

 誠一 「さて、と。わしは山で一仕事せにゃならん。悪いが、時間が来てしまった」

 北斗 「いえいえお構いなく。こちらこそ長居してしまいました。お茶、ごちそうさま

 です」

 昴  「ゴメンアソバセー」

 北斗 「おじゃましました」

 赤星 「オジャジャシマシター」

 

 去っていく3人

 

 村長 「…あんた、さっきの人たちとどういう関係だい?」

 誠一 「道に迷っていたんでお茶を出した仲です」

 村長 「へえ」

 誠一 「何か?」

 村長 「いえね。去年のことで何か話していたんじゃないかと思ったんだが。どうやらあたしの思い違いみたいだな」

 誠一 「済んだ話じゃないですか」

 村長 「だがきみはどうする?このままの状態で」

 誠一 「構いません」

 村長 「なら、いいんじゃが。だがそろそろ時間の問題だよ。」

 誠一 「わかってます」

 村長 「本当に?」

 誠一 「わかってます」

 村長 「ま、いいんじゃがの」

 

 村長が去ろうと玄関の戸を開けると、

 奥にいた村人達がすし詰めで覗いているのに気づく

 

 村長 「…いたんかい」

 村人5「か、回覧板回そうと思って」

 村長 「はあ…」

 村人2「やっぱりまだいるんじゃねぇのか?」

 村人3「やめない!縁起でもねーことを!」

 村長 「おめえたち!」

 村人4「だってぇ…」

 誠一 「いいんですよ、村長…」

 村人1「粟島さんよお、あの若えもんは何なんだい」

 誠一 「さあ…」

 村人1「さあ?知り合いじゃねぇのけ?」

 誠一 「いや?」

 村人2「あんたのこと嗅ぎ回ってるんじゃないんかい?」

 誠一 「それはあんたがたも同じだろうに」

 村長 「まあまあ。他所もんには警戒しておくにこしたこたぁないってことだ」

 村人1「村長…」

 村長 「時間の問題とはそういうことじゃな」

 

 村長とともに村人たちがぞろぞろ帰っていく

 

 サヨ 「セーイチさん、セーイチさんはどこに行ったのかしら。セーイチさーん!」

 誠一 「ばーさん、わしはここじゃあ」

 サヨ 「セーイチさん」

 誠一 「ここじゃて!」

 サヨ 「セーイチさーん!」

 誠一 「ばーさん…」

 サヨ 「あらセーイチさん、こんなところにいたのね」

 誠一 「ああ、今戻ったわい」

 サヨ 「ごめんなさいねぇ。よく見えないんです」

 誠一 「わがったわがった」

 サヨ 「先に寝ますからね」

 

 寝室へ向かうサヨ

 暗転

 宇宙船内

 

 昴  「やっぱ地球のインスタントコーヒーはうまいなぁ」

 赤星 「私は遠慮しときます」

 昴  「先輩の注ぐコーヒー飲めないの?」

 赤星 「失敬な!飲めますよ!」

 昴  「ところで、ターゲットには会えませんでしたね」

 北斗 「ああ」

 赤星 「コーヒー飲みました!」

 昴  「まずいですよ、それ」

 赤星 「コーヒー飲みましたよ!」

 北斗 「場所は間違いないはずだ」

 昴  「…もう一回いっときます?」

 赤星 「嫌ですよ」

 北斗 「聞いて確かめるしかないな」

 昴  「ですよね」

 赤星 「そんなにいらないですって!」

 昴  「…ぼくたちだけじゃ無理ですよ。あまり派手に動くと浮きますし」

 北斗 「そうだろうと思って君たちの分も用意しておいた」

 昴  「着るんですか、これ」

 赤星 「隊長が着てるなら仕方ないですね」

 

 昴  「わかりましたよ。着ますから」

 赤星 「先輩、なかなか似合ってますよ」

 昴  「アカボシ、お前こそバッチリ似合ってるよ。これなら親近感湧くと思うなぁ」

 赤星 「いやいや、先輩。今度から作業着はそれでいいんじゃないですか?」

 北斗 「…着替え終わったら明日の打ち合わせだ。」

 2人 「はーい」

 

 北斗が自室に戻る

 

 赤星 「…隊長、なんか機嫌悪くないですか?」

 昴  「いや、いつも通りだろ」

 赤星 「そうですよね」

 昴  「何でもかんでも願いなんてすぐに叶うわけじゃないし」

 赤星 「それが僕たちの仕事じゃないですか」

 昴  「星屑に願うなんて、ロマンだけどな」

 赤星  「あれを綺麗なんて思えませんけど、そこが感性の違いなんじゃないですかね?」

 昴  「お前は絶対ここに永住できないな」

 赤星 「だって仕事で来てますから」

 北斗 「着替え終わったか?」

 昴  「はい、ただいま」

 赤星 「あ、もうちょっと待ってください!…はい、終わりました!」

 北斗 「では、明日についてだが…」

 

 暗転

 村の集落・集会所。明転

 

 村人1「ええっ⁈」

 村長 「しっ 声が大きい」

 村人2「でもどうすんだ?」

 村人3「どーするもこーするもねえって」

 村長 「心配ねぇ。その為の祭りだ」

 村人4「まさか生きてるうちにこの祭りを拝めるたぁね…」

 村人5「あの外人たちはどうする?」

 村長 「その為の集会だ。周りに悟られず、それぞれ準備を進めるんだ」

 村人1「あいわかった」

 村人2「これで事態が収まればいいべな」

 村人3「んだな」

 暗転

 ラジオのノイズ音やチューニングの音が聞こえる

 

 昴  「アー、アー、聞こえますか?こちらスバル。風向きは南南東。

 紫外線はやや強め。水分の供給量は適正です。」

 北斗 「了解。スプリンクラーの水を柔目にしてくれ」

 昴  「了解」

 北斗 「アカボシ、地上はどうだ?」

 赤星 「こちらアカボシ。土壌の状態は良好。ミミズやダンゴムシ等の地中生物

     の微弱電波を確認。先輩、水撒きし過ぎると根が腐りますよ」

 北斗 「了解。引き続き土を耕してくれ」

 赤星 「…了解」

 

 音が薄れ、明転F.I

 3人が畑を耕し、水を撒き、苗を植えている

 

 誠一 「あ、北斗くんおはよう。今日は早いね」

 北斗 「おはようございます。いやあ、涼しいうちにやろうかなって」

 誠一 「それは農家としていい心がけだな。頑張れよ」

 北斗 「はい!」

 赤星 「…先輩?」

 昴  「なに?」

 赤星 「僕たち、願いを叶えにきたんですよね?」

 昴  「うん」

 赤星 「なんで地球で植物を育てているんでしょう?」

 昴  「…作戦には綿密な下準備が必要だろ?」

 赤星 「下準備ってこれ…プロなんちゃらと何か関係があるんですか?」

 昴  「あるんじゃない?深―い伏線が」

 北斗 「ほらそこ、口動かしてないで手ぇ動かす!」

 赤星 「はーい」

 誠一 「あー、あー、ちょっとそれ貸してみ?」

 赤星 「?」

 誠一 「今じゃトラクターって便利なもんがあんだけどよ。昔はこうやって…

     重心を少し前にして…こう!」

 赤星 「ポポポー!」

 誠一 「どうだい?上手くできるだろ?」

 赤星 「ヌペ!ゲルルパンタバ!」

 北斗 「すごい!よく掘り返している、って言ってます」

 誠一 「へっ、言葉の壁なんて分からなくてもどうにでもなるもんさね」

 赤星 「セーイチサン、アリガトゴザマース!」

 誠一 「なぁに、ちょっとコツを教えてあげただけさ」

 昴  「デデンベコルソノー!」

 北斗 「あ、ずるい!俺にも教えてって言ってますよ」

 誠一 「しょうがねぇーなぁ。いいか、ただ水を撒きゃいいってんじゃだめだ。

     全体にやっても雑草も一緒に育っちまう。だから…こうして…」

 昴  「ポポポー!」

 北斗 「なんか色々とご教授していただいてありがたいです」

 誠一 「いやいや、こんなに一生懸命な若いのを久しぶりに見たら…ね」

 北斗 「誠一さんはいつから農家を?」

 誠一 「ほんの30年くらい前さ。この山に住んでから妻と二人で」

 北斗 「あの、失礼ですが奥さんは…」

 誠一 「5年ほど前に逝っちまってね。でも、ま、俺たちはもうそういう歳さ」

 北斗 「すみません、なんか悲しいことを思い出させるみたいで…」

 誠一 「いや、いいんだ。妻はまだいる」

 北斗 「いる…?」

 誠一 「まだあの家に妻の声がする。まるであの世に未練を残しているみたいだろう?」

 北斗 「…それって」

 誠一 「なんか変だよな。だけど、あいつ、いるんだよ」

 北斗 「…願いですよ」

 誠一 「願い?」

 北斗 「誠一さん、あなたの願いです。流れ星に、願ったのでしょう?」

 誠一 「いやいやそんな、まさかね」

 北斗 「昨年の夏、ペルセウス座流星群が降り注いだのを覚えていますか?」

 誠一 「…星とか詳しくないからよく分からんのだが」

 北斗 「あなたは確かに願ってんです。『もう一度サヨにプロポーズがしたい』って」

 誠一 「…!」

 北斗 「でも、まだプロポーズをしていないのは…そういうことなんじゃないですか?」

 誠一 「…あんた、一体何者なんだい…」

 北斗 「そんな、大した人間じゃないですよ。ただなんとなく、

 そうなんじゃないかなって思っただけです」

 誠一 「…」

 北斗 「僕のカンです。天文台で働いてからでしょうかね」

 誠一 「あんたなら、分かってくれるかもしれない…」

 北斗 「え?」

 誠一 「あんたなら、あいつを救えるかもしれない。ちょっとうちに来てくれ」

 北斗 「ああ、ちょっと!」

 

 北斗を強引に連れていく誠一

 ひたすら農作業に打ち込む二人

 

 赤星 「…先輩?」

 昴  「なに?」

 赤星 「結構楽しいです、これ」

 昴  「そうだね~」

 

 粟島の家

 

 誠一 「ここだ」

 北斗 「誠一さん…」

 誠一 「ほら、ばーさん。お客さんだよ」

 北斗 「…」

 誠一 「ささ、北斗くん座って。お茶でも飲んで」

 北斗 「誠一さん…?」

 誠一 「ほら!北斗くん、ここに!」

 北斗 「すみません、ぼくには何も見えません」

 誠一 「じゃあ、なぜだ…?なぜ妻の名前がサヨだと知っている…?」

 北斗 「それは…」

 村人3「いたぞ!」

 村長 「かかれい!」

 

 村人が祭事用の恰好で家に押しかける

 

 村人2「でたな悪霊め!」

 村人1「覚悟しろ!」

 村人達「おおーっ!」

 北斗 「な、なんだ⁈」

 誠一 「…村長」

 村長 「言ったじゃろう?時間の問題だと…」

 誠一 「…」

 村長 「タイムリミットじゃ。この村の掟に従ってもらう」

 

 念仏を唱えだす村人達

 

 誠一 「うう…」

 村長 「安心せい。苦しむのは一時じゃて」

 

 悶絶する誠一。暗転。

 

 

 サヨ 「誠一さん」

 誠一 「サヨ…?」

 サヨ 「誠一さん」

 誠一 「サヨ?…サヨ!」

 

 明転

 

 誠一 「サヨ!どこにいるんだ⁈」

 サヨ 「ここよ」

 誠一 「サヨ!」

 サヨ 「誠一さん。お願いがあるの」

 誠一 「な、なんだ…?何でも言いなさい」

 サヨ 「助けてほしいんです。目も良くないし、耳も遠くて…」

 誠一 「そんな…」

 サヨ 「私がぼけておかしくなる前に、お願いします。あなたを忘れたくないんです。

     どうか…お願い」

 

 誠一 「サヨ…ごめんなぁ、ごめんなぁ…」

 サヨ 「ありがとう…あなた…」

 

 照明が点滅を繰り返す

 

 星の流れる音がする

 

 暗転

 村人のどよめきが聞こえる

 明転

 

 村人4「あ、悪霊だぁ!」

 村人1「怯むな!まだ唱え続けろ!」

 村人5「いま楽にしてやるからな!」

 

 再び念仏を唱える村人達

 

 誠一 「ばーさん、今行くからな…奴らの好きにはさせん」

 北斗 「誠一さん⁈」

 

 目を瞑る誠一

 

 誠一 「北斗くん、きみが何者かは知らん。

 が、きみのおかげでやっと願いが叶いそうだ」

 

 誠一 「これで、ゆっくり、眠れる…」

 

 村長 「何をしておる!止めなさい!」

 北斗 「えっ!」

 村長 「みんな唱えるのをやめろ!」

 

 その場に倒れこむ誠一

 

  「任務完了。直チニ総員帰還セヨ」

 

 北斗 「えっ?」

 村長 「いいか。祭りを見てしまった以上、きみを生きて返すわけにはいかん。

     …今から村を出ていきなさい。」

 

 遅れて、昴と赤星がやってくる

 

 昴  「隊長!」

 赤星 「…!」

 村長 「きみたちもだ。この村は彷徨う魂をこの世に留めてはいけない。

 やつはそれを知っていて破った。その罰じゃ」

 北斗 「任務は完了した。すぐに退却する」

 赤星 「でもセーイチさんは…!」

 北斗 「これは命令だ」

 

 昴  「これが…願いだって?隊長!」

 北斗 「隊長の命令が聞けないのかスバル。願いは叶ったんだ」

 昴  「…!」

 北斗 「…村長、みなさん。お世話になりました」

 

 軽く会釈をし、去っていく北斗

 後を追う昴と赤星

 

 村人2「か、帰れ!二度と戻ってくるな!」

 

 口々に帰れという言葉が飛び交う

 

 村長 「さ、邪魔者はいなくなった。清めの儀式を始めるぞ」

 

 静かな祈りが辺りを包む

 

 徐々にF.O

 

 テレビのニュース映像が音声だけ流れる

 

 (ニュースキャスター)「さて、次のニュースです。夏の夜空に天体ショー、今夜10時頃

           が見頃のペルセウス座流星群。多いところでは一時間に30個か   

           ら60個も確認できます。流星群の中でも比較的見やすく、今年

 は天候にも恵まれ、肉眼ではっきりと見えるとのこと。

 今夜はロマンティックな星空を家族とともに過ごしてはいかがで

 しょうか?続いて、来週の天気予報です…」

 

 昴  「アー、アー、聞こえますか?こちらスバル。流星群の軌道を確認。アンテナを

     受信モードに移行します」

 北斗 「了解。電波の受信容量を最大値まで引き上げてくれ」

 昴  「了解」

 北斗 「アカボシ、地上はどうだ?」

 赤星 「こちらアカボシ。天候は良好。大気の状態も安定しています。相変わらず

     オゾンは薄いですが…」

 北斗 「了解。引き続き観測とワープ地点の確保を頼む」

 赤星 「了解」

 北斗 「いいか。どんな願いも彼らにとっては救いだ。誰にでもなく、消えてしまう星に願いを託している。どんな気持ちも、そのままに受け止めてやれ。

     本当の願いは、願った本人だけが知るべきことだ」

 二人 「了解」

 

 プラネタリウムの様な星の明かりが点々とした景色が観客の目に映る

 オルゴールが流れ、星が時間とともにゆっくり動いていく

 

 (ナレーション)「…8月の空は夏の大三角形を始め、天の川や比較的星座が見つけやすい

 季節といえます。今年は特にペルセウス座流星群も確認でき、夏の夜空を鮮やかに彩るでしょう。日本の原風景とともに流れる、自然の音とともにしばらくお楽しみください…」

 

 

 満点の星空から、無数の星が流れていく

 

 幕。