もしかして:デート

【あらすじ】

この2人、付き合っていません。


学生時代、同級生だった2人が久しぶりに会って話す。

でも、こうやって2人きりで話すのって1回や2回じゃないんだって。え?これってデートなんじゃないの?違う?

【登場人物】

 男

 

 役者を続ける男。

 女とは学生時代の同級生

 

 女

 

 地元で仕事をしている女。

 男とは学生時代の同級生

 

 店員

 

 カフェで働く店員。

 男女の話は丸聞こえである

 

 会社員

 

 カフェで作業をする会社員。

 男女の話は丸聞こえである

 【本文】

 カフェ。相席のテーブルが3席。

 中央のテーブル上手側に男、下手側に女が座る。2人でメニューを決めている。

 上手側のテーブルにはパソコンで仕事する

 サラリーマンが座っている。

 しばらくして、店員がやってくる

 店員 「お待たせしました。ご注文はいかがですか?」

 男「あ~、これひとつ」

 店員「アイスカフェラテがお一つ」

 女「じゃあ、同じものもう一つ」

 店員「アイスカフェラテがお二つ」

 

 女「以上で」

 店員「かしこまりました。メニュー、お預かりします」

 店員、去る

 間。

 女「どうだった?アレ」

 男「まあ、最悪だったよね」

 女「あ~やっぱり?」

 男「やっぱり?」

 女「なんていうか、演出のおかげっていうか」

 男「そうね、脚本が悪いよ」

 女「う~ん、キャラ立ちが似ているからみんな声の出し方が似すぎてて区別がつかないみた

 いな」

 男「あぁ~」

 女「あ、でも最初出てきたときはあれ良かったよ。本物かと思ったもん」

 男「練習したからね」

 女「私も見た時、『あぁここ凄く練習したんだな』って思った。上手いな~って」

 男「友人にレクチャーしてもらったんだけど、やり方が違ってて、おい!ってなったけど」

 女「でも滑舌はまだサ行があまいかな」

 男「ああ…」

 女「久しぶりにみんなの顔みて、『あ~頑張ってるな~』って感じ」

 男「のんちゃんがいたの知ってた?」

 女「のんちゃん?」

 男「のんちゃんも出てたんだけど」

 女「えっ全然分かんなかった」

 男「のんちゃん、今年でやめちゃうんだ」

 女「あら」

 男「今回のオーディションで上に上がれなかったらやめるって決めてたみたいだけど」

 女「そうだったんだ」

 店員「お待たせしました。アイスカフェラテでございます。…ごゆっくりどうぞ」

 女「これ何?ガムシロ?」

 男「じゃないの?」

 

 男、ガムシロップをカフェラテにかける

 女「びっくりした。そのまま飲むかとおもった」

 男「のまないよ」

 女「で、結局みんな結果はどうだったのさ」

 男「キープだよ。だから、今度のんちゃんのお別れ会するんだ。けんじも事務所のやり方が

 合わないからやめるって」

 女「けんちゃんも?」

 男「残ったのはおれと南くんだけ」

 女「ん~最終的に上手い下手じゃなくてマネージャーや会社に好かれるかどうかだもんな

 ぁ…」

 男「そこなんだよねぇ~…のんちゃん、上手かったのになぁ」

 女「まぁ、私もそうゆうのがあって出来レースなとこがあったから辞退したんだけど。どこ

 いっても何か一つ飛び抜けて持ってる人ほど強いと思う」

 男「それ、マネージャーにも言われた」

 女「やっぱりね」

 男「吹替か、ナレーションか、芝居、どれかに絞れって」

 女「どっちかっていうと芝居じゃない?」

 男「芝居かぁ」

 女「巻き込まれる系主人公だったり、すぐヒロイン死んじゃう系主人公だし…やってみたい

 役とかないの?それか、逆に与えられた役だけ淡々とこなしていく感じなの?」

 男「おれ、心が弱い役得意だから」

 女「それ、心が弱くてもフィジカル面で強かったり、覚醒する人だよね?」

 男「あとは、お父さん役…」

 女「出来なくもない…かな。なんか、日曜日に家族サービスで公園に行って、バドミントン

 するんだけどあんまり運動神経が良くないお父さん役」

 男「どんな設定だ」

 女、カフェラテにガムシロップを入れる

 女「…まあ、とりあえずみんな元気でやってることは分かった」

 男「うん、元気でやってるよ。あ、かなちゃんと田島くんって別れたの知ってる?」

 女「え?あぁやっぱり別れたのね」

 男「知らなかったんだ?」

 女「いや、最初から絶対別れると思ってたし」

 男「興味無さすぎでしょ」

 

 女「そんなもんじゃないの?そっちはどうなの?続いてんの?」

 男「まぁ、最近別れたんだけど…」

 女「へぇ~」

 男「あれは俺が悪かったから…」

 女「ああそうなんだ。私、あの人嫌いだから」

 男「へぇ、それは残念。いい人なのに」

 女「みんなはいい人だと思ってるけど、私はそう思ってないからいいの。個人的に嫌いなだ

 け」

 男「で、お前はまだ彼氏作らないの?」

 女「は?なんで?」

 男「職場でなんかないの?」

 女「職場でって…仕事する場所で出会いを求めてどーすんのさ」

 男「じゃあもうお見合いしかないな」

 女「いやいやないないない。そっちだって彼女作らないの?」

 男「ここ1年ぐらいは作らないな。友達といる方が楽しいから」

 女「絶対嘘だね。ほとぼりが覚めたら女を作るね」

 男「いやいや、おれのことよりもさ、なんかいないの?いい人」

 女「いないからこその今でしょ」

 男「おれはねぇ、幸せになってもらいたいんだよ」

 女「勝手に付き合うことがゴールみたいな幸せ願われても困る」

 男「ほんとさぁ内向的っていうか」

 女「好きでも何でもないのに好意を寄せられるのが嫌だから何も発展しないんですよ残念

 でした。アハハハハ」

 男「そういえばあまり目を逸らさなくなったね」

 女「まぁ、あの後も色々頑張ってたんで」

 男「介護って感じだったじゃん」

 女「それは否定出来ないな。体が苦しくなる前に逃げるような努力はしてきたつもり。例え

 ばロミジュリでよくあいつら抱き合うじゃない?台詞言ってる間は耐えられるんだけど、

 それ以外はもうしんどくて。練習はちょくちょく休憩を入れてもらったよ」

 男「うわ」

 女「休み休みやらないと体がもたないんだもん。それとなくはぐらかしてどうにかやってた」

 男「じゃあ今も?」

 女「ダメだよ」

 店員「グラスお下げしますね」

 

 女「仕方ないよ。そうゆう体だから」

 男「大変だね~」

 女「あ、時間大丈夫?」

 男「ん~あと 20 分ぐらいかな。ちょっとお手洗い行ってくる」

 女「はーい」

 男、席を立つ。

 女、男がいなくなったのを確認し店員を呼ぶ

 店員「お待たせしました」

 女「あの、どう思います?」

 店員「何がですか?」

 女「一緒にいる人」

 店員「どう、と言われましても…」

 女「あの人、絶対私のこと避けてますよね?」

 店員「そうなんですか?」

 女「幸せになって欲しいなんて、結局お前は論外だからおれと付き合いたいなんて勘弁して

 くれの暗喩じゃないですか」

 店員「深読みしすぎだと思うんですけど」

 女「たぶん、もしかしたら会うことはもうないと思って。時間がある時に話したいから今日

 会ってるんですけど、なんかいままでと態度が違うんですよあいつ」

 店員「そうなんですか?」

 女「女と別れたからかもしれないですけど、妙に上からというか…ううん」

 店員「複雑ですね。あ、来ましたよ」

 男が戻ってくる。同時に、店員がいそいそとバックヤードに帰る

 男「なんか話してた?」

 女「冷房が効いてるから、ちょっと温度上げてもらえますか?って話」

 男「そんなにここ寒い?」

 女「私の上が空調の真下だからでしょ…」

 しばらく沈黙。お互いにスマホをいじり出す

 会社員、仕事に夢中になり、コーヒーをこぼしてしまう

 

 会社員「あっ」

 男「大丈夫ですか?」

 男、濡れたテーブルをおしぼりで拭く

 女が遅れてコーヒーが滴る椅子を拭きだす

 女「パソコンとか濡れてないですか?」

 会社員「すみません、ありがとうございます」

 女「ちょっと、ペーパータオルもらってくる」

 女、席を立つ

 会社員「すみません、僕の不注意で…」

 男「いいんですよ。それより、話、聞いてました?」

 会社員「?何のことですか?」

 男「いや、聞いてないならいいんですけど。今出てった人、俺に会うためにわざわざ茨城か

 ら来たんですよ」

 会社員「えっ、結構遠くないですか?」

 男「遠いでしょ。お茶しにわざわざ出てくるなんてなんか未練があって。俺、殺されるんじ

 ゃないかってひやひやしてるんですけど」

 会社員「それはないと思うんですけど」

 男「本人はこの前俺がやった舞台の感想を直接言いたいから来たなんて言ってたけど、なん

 だか裏がある気がして」

 会社員「好き、とかですか?」

 男「どうなんでしょうね。もうこの時点で女として見てない自分がいるからほんとに何しに

 来たんだ感しかないんですよ」

 会社員「でも嫌いだったらここまで会いに行かないし、あなたも嫌いだったら断ってたって

 ことですよね?」

 男「いや、LINE で誘われたんですよ。一緒に映画見に行かないかって」

 会社員「いいじゃないですか」

 男「でも断れない空気ってあるじゃないですか。上司からの飲みの誘いみたいな」

 会社員「じゃあ今日はいやいやで…?」

 男「つきあってるんですよ、仕方なく」

 会社員「ううん」

 男「まあでも、これで懲りてもらえばいいんですけど」

 

 女が戻ってくる

 女「なんか話してました?」

 男「テーブル拭いてたら、暑いですねって話」

 女「そんな熱心に拭いてたの?」

 ペーパータオルでテーブルの足元を拭く

 男「キレイにしないとね」

 女「じゃあそんなにペーパータオルいらないじゃん」

 男「まあまあ。じゃ、そろそろ時間だから」

 女「そっか」

 財布を持って席を立つ2人

 店員「ありがとうございました」

 間。

 店員と会社員、2 人が去っていくのを見る

 店員・会社員「もう友達でいいだろ!」

 幕。