みっちゃんと魔王の呪い

【あらすじ】

昔々のつい最近の話。魔王の呪いを解くために彼らは旅に出た。ある者はみっちゃんの為に、

ある者は教会の為に、ある者は自らの権威の為に、ある者は怪我の為に…

それぞれの歪んだ“思い”が交錯し、果たして魔王を倒すことはできるのか?

冷え切ったみっちゃんとの愛を取り戻せるのか?

ゲス極銭ゲバファンタジー、ここに爆誕。     

【主な登場人物】

  ・狂戦士(バーサーカー)

  戦いとみっちゃんのことしか頭にない。みっちゃんの呪いを解くために冒険に出る

  ・修道士(シスター)

  戦士孤児院の経営者。ヨーデル教を信仰しており、スポンサー金と褒賞の為に冒険に出る

  ・黒魔術師(ブラマジ)

  魔王の呪いを解く呪文を知っていると自負する数少ない人物の一人。こちらも損得勘定で動いている

  ・聖騎士(パラディン)

  真面目でいいヤツなのに虚弱体質。多額の保険金が出る為魔王と戦い怪我をして保険金が下りるのが目的

  ・魔王(マオー)

  崩壊を司る冥府の王。それは自然現象だけでなく、精神的にも崩壊をもたらすとされる

  無意識に呪いをかける癖がある

  ・みっちゃん(ミッチャン)

  狂戦士の彼氏(or彼女)。都合のいいように呪いにかかっている。これでもヒロインである

  

【本文】

 「時は20XX年。世界は『隣の客はよく柿食う核』によって包まれた。

   世界は再生と崩壊を繰り返し、3度目の再生によって平和は保たれた。

   しかし、未だに『魔王』の存在は拭えず、戦士は戦いに駆り出され、

   『呪い』を解こうとする者は後を絶たず、魔王の手先にされたという。

   さらに数十年。狂おしいほど平和な世界で戦士たちは職を失い、

   魔王の呪いを解こうとする者は煙の様に消えていった…。」

  

  

  *シーン1 ギャップカップル

   

  呪いにかけられた数多の戦士たちが亡霊のように彷徨う

  唸るような声が、悲痛な叫びが木霊し、反響し合う。

  

  戦士の恰好に似合わない食卓が狂戦士とみっちゃんを囲む

  その食卓の周りを囲みつつ、去っていく戦士たち

  

  狂戦士「みっちゃん!みっちゃん!みっちゃーん!」

  みっちゃん「何よ。うるさいな」

  狂戦士「今日ね、バジリスクを叩き潰してカトブレパスを八つ裂きにしたんだけどね」

  みっちゃん「うるさい。しゃべんな!」

  狂戦士「みっちゃ〜ん」

  みっちゃん「テレビの音が聞こえないんだよ!」

  狂戦士「だから…」

  みっちゃん「もう!呪いにかかってんだからこっちは!そんなどうでもいいし、モンスターを倒しに行く暇があるならさっさと魔王の呪いでも解きなさいよ!」

  狂戦士「(深刻そうに)ねえみっちゃん、いつから呪いにかかったの?」

  みっちゃん「最近」

  狂戦士「最近?!」

  みっちゃん「アンタがうざったく感じる呪い。魔王あたりがかけたんじゃない?」

  狂戦士「ねぇ、もしみっちゃんの呪いが解けたら、うざいなんて思わなくなるんだよね?」

  みっちゃん「そうなんじゃない?」

  狂戦士「わかった!じゃあ魔王を倒しに行く!行ってきますのチューは?」

  みっちゃん「しねーよ!さっさと行け!」

  狂戦士「はーい」

  

  そそくさと出ていく狂戦士

  

  みっちゃん「はーっやっと静かになった~平和が一番…」

  

  バラエティー番組を見始めるみっちゃん

  

  

  *シーン2 戦士孤児院

  

  さびれた街並み。その教会にたくさんの戦士たちが集まっている。教会の入り口には

  「戦士孤児院」と書いており教会に似合わない屈強な戦士たちが、中央にいる修道士の言葉を祈りながら聞いている。その戦士たちのごつごつとした肉体にステンドグラスの虹色の光が刺さり、筋肉が神々しくも見える。

  

  修道士「…争いのない時代は、人々を『平和』という文字に掻き立てます。しかしどうでしょう。我が子たちは戦場を失い、職を失ったも同然です」

  戦士たち「イエス、シスター」

  修道士「彼らは血と鉄の涙を流し、平和を作り上げてきました。しかしどうでしょう。

      平和になると戦士は用済みかのように武器を捨てよと言い、

  職を奪うのが真の平和でしょうか?

      いいえ、平和というのは誰もが望み救われなければなりません」

  戦士たち「イエス、シスター!」

  修道士「さあ祈るのです!職を!派遣を!短期バイトを!私はあなたたち迷える子羊たち

  に知恵の果実を差し上げましょう」

  戦士たち「イエス、シスター!」

  

  シスターの後ろに検索用のパソコンが一台セットされており、我先にと並ぶ戦士たち。

  さながら職安の簡易版と言ったところか。

  

  修道士「この神の恵みに10ゴールド5分。延長30秒につき2ゴールド。お布施の力は

      あなた方に未来を授けます」

  戦士たち「イエス、シスター!」

  

  お布施箱に次々とお金がつぎ込まれ、パソコンのキーボード音が忙しなく鳴り響く

  そのうちの一人が、パソコンを使うと急に声を荒げる

  

  狂戦士「えっ!」

  修道士「どうしましたか?読み込みが悪い時はF5キーを押して…」

  狂戦士「違う!ないんだ!」

  修道士「何がですか?」

  狂戦士「ないんだよ!『魔王を倒す仕事』!」

  修道士「…魔王?」

  

  周囲がどよめく

  

  修道士「(周りに)静粛に。(手元のストップウォッチを見て)時間切れです。延長しますか?」

  狂戦士「延長も何も魔王を倒す仕事がないってどういうことだよ!」

  修道士「延長する気がないなら席を退きなさい」

  狂戦士「(しぶしぶ金を入れる)どういうことだよ」

  修道士「どういう?仕事にならないから仕事として登録されていないのです」

  狂戦士「魔王を倒さなきゃ『呪い』が解けないだろ!」

  

  周囲がひそひそしはじめる

  

  修道士「はあ呪い…随分と昔のことを言いますね。戦わなくても十分じゃないですか。

      呪いを解こうとすれば、魔王の手先にされて二度と戻ってこれなくなります。

      そんな危ない仕事、あなたにできるんですか?」

  狂戦士「みっちゃんが、呪いにかかってるんだ」

  修道士「みっちゃん?」

  狂戦士「大好きな人を救えないなんて戦士じゃないだろ?それに修道士、さっき言ってた

  じゃないか。『平和は誰もが望み、救われなければならない』って」

  修道士「まあ、言ってましたけど」

  狂戦士「お願いだ修道士!魔王を倒せば真の平和は訪れるんだ!(大剣を振り回し)ほら!

  こんなに強いからさ!腕には自信があるんだよ!だって魔王を倒せばいいんだろ?」

  修道士「そんなの労働の無駄ですよ。魔王を倒すボランティアみたいな活動」

  狂戦士「…みっちゃんは、お金じゃ買えない」

  修道士「ああ…まあそうですね」

  狂戦士「新しく魔王を倒す仕事じゃ…だめなのか?(大剣を振りかざす)」

  修道士「(大剣の太刀筋を見て)…いままでやらなかったことをやり遂げるというのは、

  新しい顧客を生み出すキッカケになる…だから私があなたのスポンサーになって注目を集め、ひいてはこの『ヨーデル教』の基金にもなる…と?」

  狂戦士「要するにそういうことだ。俺はみっちゃんを愛することと、敵をなぎ倒すことしか能がない」

  修道士「ほう?言っておきますが、報酬の7割はいただきますよ?」

  狂戦士「構わない」

  修道士「(バカなのこいつ…)よろしい。それなら手伝いましょう。世界救済の為です」

  狂戦士「みっちゃんの為だ」

  修道士「いいですか、スポンサーの言うことは絶対です。なんてったってスポンサーですからね。表面上は世界救済でその…みっちゃんも救済のうちの一人ということです」

  狂戦士「わかったよ修道士」

  修道士「さあ、聖戦のはじまりです」

  戦士達「イエス、シスター!」

  

  ナレーション「こうして一行は魔王打倒を目指すのであった…!」

  

  狂戦士「なんだこの声は?」

  修道士「スポンサーですから」

  

  ナレーション「この番組は、ヨーデル教会の提供でお送りいたします」

  

  修道士「スポンサーですから」

  

  *シーン3 始まりに立ち塞がる者

  

  山賊たちがこそこそと話している

  

  山賊2「先輩~もうやめときましょうよ~」

  山賊3「こんなことやっててもどうにもなりませんって!」

  山賊1「うるせぇ!いいか、これは仕事なんだ!時給が発生するってのが分かってんのか?」

  山賊2「そう言われましても…」

  山賊3「時給っていったって780ゴールド。最低賃金ですよ?」

  山賊1「定時までぼーっとしてりゃ金が入るんだからいいだろうが」

  山賊2「まぁ、そうですよね」

  山賊2・3「ぼー…」

  山賊1「なにぼーっとしてんだよ!」

  山賊3「だって先輩がぼーっとしてりゃいいって言ったじゃないですか!」

  山賊1「俺の話を鵜呑みにし過ぎだ。誰が怠けていいと言った?」

  山賊2・3「…」

  山賊1「お前らは労働者としての自覚がないのか?仕事は自分で見つけるもんなんだよ!」

  山賊2・3「はい…」

  山賊1「これだから最近のゆとりは…」

  

  狂戦士・修道士登場

  

  狂戦士「魔王が何だって?」

  山賊1「は?魔王?」

  狂戦士「いかにも魔王がどうのって話をしている顔だと思って」

  山賊2「なんすかいきなり…こっちは仕事中なんすよ!」

  狂戦士「仕事…?」

  山賊3「魔王だか何だか知らないけど、ほっといてもらえますかね」

  山賊1「待て!…魔王と言ったか?」

  狂戦士「言った」

  山賊1「魔王の事、教えてやらんでもないぞ?」

  狂戦士「本当か⁈」

  山賊2「(先輩!何言ってんすか!)」

  山賊3「(俺たちそんなこと微塵にも知らないですよ!)」

  山賊1「(何言ってやがる!これが俺たちの仕事だろうが!)」

  狂戦士「魔王の何を知っているんだ?」

  山賊1「はっタダで教えると思うのか?(短剣を抜き)」

  狂戦士「…分かっているな、お前(大剣を構え)」

  山賊1「その得物と後ろにいる金持ちそうな僧侶の現金、…と、お命頂戴するぜ!」

  修道士「…あ、一応私も含まれているのですね」

  

  狂戦士と山賊1が交戦している

  

  山賊1「なかなかやるな」

  狂戦士「フッ」

  

  棒立ちで見ている山賊2・3と修道士

  

  修道士「(接戦の様子を見て)保険下りますかねぇ…」

  

  山賊1「ちょ、タンマ!タイムタイム!」

  

  山賊1「(山賊2・3に駆け寄り)なんでお前らは戦わねぇんだよ⁈」

  山賊2「えっ…?だって危ないじゃないですか」

  山賊1「危ないとかの問題じゃないだろ!」

  山賊3「だって、下手したら殺人ですよ~嫌ですよ共犯なんて」

  山賊1「お前らは!山賊のバイトやってる時点で!共犯なの!」

  山賊3「それは困りますよ~」

  山賊1「それが仕事だっつってんだろ!」

  山賊2「でも俺らあんまり先輩の役に立たないんで戦っても無駄かな~って」

  山賊1「無駄じゃないから!戦うのが仕事だから!」

  山賊3「ほら、3対1って卑怯じゃないですか」

  山賊1「俺らの仕事は手段を選ばないの!」

  狂戦士「もういいか?」

  山賊1「もうちょっと待ってくれ」

  山賊2「先輩、無理に仕事を増やすなんてこっちになんのメリットもないですよ」

  山賊1「メリットだと?」

  山賊3「そうですよ。さっさと適当な事言って帰ってもらえばいいじゃないですか」

  山賊1「お前なぁ…情報は必要な事だけ的確に短絡的に話さないと。適当なことを言ってクレームがくるのはこっちなんだから」

  山賊3「山賊にクレームなんてあるんですか?」

  山賊1「あるよ。身も蓋もないクレームがっ…」

  

  狂戦士が背後から山賊1・3を薙ぎ倒す

  

  狂戦士「魔王について知っていることを話したら、見逃してやる」

  山賊2「ひ、ひえ~」

  狂戦士「まさか、知らないとは言わせんぞ?」

  山賊2「あっえっそ、そういえば…隣町の廃墟に住む黒魔術師が魔王の呪いを解く方法を知っているとかなんとか…」

  狂戦士「魔王の呪いを解く方法だって?」

  山賊2「た、たぶん…」

  狂戦士「こうしちゃいられない。先を急ごう!」

  

  足早に去っていく狂戦士

  

  山賊2「あ、あいつこそが魔王だ…」

  修道士「慰謝料」

  山賊2「は?」

  修道士「恐喝および強盗未遂に対しての慰謝料」

  山賊2「何言ってんだお前」

  修道士「訴えてもいいんですよ?あなたのバイト先」

  山賊2「ぼ、ぼくは見ていただけじゃないですか~」

  修道士「職場の責任は職場の人間がとるべきでしょう。それが働くということです。さあ、慰謝料を!訴えますよ!」

  山賊2「こ、この悪魔がー!」

  

  逃げるように去る山賊2

  

  修道士「…失礼ですね。私は聖職者ですよ?神に対する冒涜です。(間)魔術師の町ですか…気が狂いそうです」

  

  不服そうに去る修道士

  

  

  *シーン4 魔術師の町

  

  儀式の呪文を詠唱し始める魔術師たち

  

  魔術師1「ア~ブラカタブラ~開けゴマ~」

  魔術師2「ビビディバビディ…ブエノスアイレス…」

  魔術師3「オン・キリキリ・バサラ・ウンバッタ・オン・キリキリ・バサラ・ウンバッタ…」

  魔術師4「ちちんぷいぷい…ケセラセラ、サインコサインタンジェント…」

  魔術師5「すのもおかめきけ…てんかのぎじんもざえもん…」

  

  魔術師1「今日の天気は晴れのち曇り…」

  魔術師2「曇り時々雨が降り…」

  魔術師3「にわか雨からの雷雨に注意し…」

  魔術師4「激しい雨の後には風が吹きカラッと晴れ」

  魔術師5「雲は多いですが降水確率は30%前後でしょう…晴れ間も多くみられます」

  

  顔を見合わせて睨み付ける魔術師たち

  

  魔術師たち「わたしの占いが一番正しい!」

  

  魔術師たちの集まりの後ろから声がする

  

  黒魔術師「おいおいまだ占いごときでもめてんのか」

  

  魔術師2「黒魔術師(ブラマジ)!」

  魔術師1「日々の鍛錬こそ、我が魔術を究め、高めることができる。卜占もそのひとつだ」

  黒魔術師「お天気占いが?能天気もいいとこだな」

  魔術師3「貴様!我が魔術を冒涜する気か?」

  魔術師4「よしなよ。こんなひねくれ者相手にするだけでも魔力が削がれちまう」

  黒魔術師「(髪を弄りながら)ああ、これ?マジックワックスで空気入れてるんだよね」

  魔術師5「とにかくだ黒魔術師。おぬしの究極魔法とやらに付き合っている暇はない。

       人々の役に立つ魔法を扱う者が今の世には必要なのだ。より正確に、魔法をコ ントロールするには、基礎的な部分を忘れてはいかん」

  黒魔術師「そのインチキ占いが役に立つなら、続けてもいいんじゃないか?役に立つなら、な」

  魔術師2「黒魔術師、お前の黒魔術が誰かの役に立ったことはあるのか?自分の為に魔術を使うのは驕りだ」

  魔術師3「見せてもらおうじゃないか、お前の魔術とやらを」

  黒魔術師「いいさ。まず、小麦粉、卵を入れてよく混ぜるだろ」

  魔術師1「召喚魔法か?」

  黒魔術師「砂糖を加えて牛乳を少々…」

  魔術師4「おい待て。パンケーキでも作る気か?」

  魔術師5「いや、ホットケーキの間違いだろう」

  黒魔術師「ここで素敵な物を入れる」

  魔術師3「素敵な物?」

  黒魔術師「お前らの目玉さ。抉りとるよ?」

  

  ドン引きする魔術師たち

  

  黒魔術師「俺の魔術、見たいんだろ?お前たちの目玉が必要なんだよ」

  魔術師2「それではお前の魔術がこの目で見えぬではないか」

  黒魔術師「ちょっとしたスパイスを利かすのが俺の魔術だ」

  魔術師5「なぜお前の魔術の為に目を奪われにゃならんのだ!」

  魔術師1「黒魔術師の目を使えばいいだろう」

  黒魔術師「それじゃあ俺が見えないだろう」

  魔術師4「このペテン師め」

  魔術師3「興醒めだ。帰るぞ」

  

  呪文を唱えながらそれぞれ帰っていく魔術師たち

  

  黒魔術師「雑魚が。一斉にブランコに乗って靴を飛ばした方がまだマシだね」

  

  狂戦士・修道士登場

  

  狂戦士「お前が黒魔術師か?」

  黒魔術師「なんだ貴様、露出狂か?生贄なら大歓迎だが」

  狂戦士「魔王の呪いを解く方法を教えてくれ」

  黒魔術師「なんだそれは?」

  修道士「すみませんね~魔王の呪いを解く方法をご存じという前提で話しているので付き合ってやってください(小銭を渡し)ほんの気持ちですから」

  黒魔術師「(小銭をはねのけて)俺、神の太鼓持ちして商売してる奴の言う事なんか聞きたくないね」

  修道士「あらあらあらあら、滅相もない。我がヨーデル教はヨロレイヒ神と共に平和と安寧を目指す存在です。あなた方みたいな魔術と称して独り言をぶつぶつ垂れ流し、生き物を冒涜する奇人変人に比べたら、足元にも及びません。が?(小銭を高そうな財布に戻し)」

  狂戦士「呪いを解く方法だけ教えれば、悪い事はしない」

  黒魔術師「なんで俺が教えなきゃいけないんだよ」

  狂戦士「お前が魔王の呪いを解く方法を知っているからだ」

  黒魔術師「タダで教えると思ってんのか?」

  狂戦士「分かった…ならば(大剣を構えようとする)」

  黒魔術師「あ~暴力で解決するんだ。それなら二度と教えないね」

  狂戦士「なんだと…?」

  修道士「二度と…?あなたいま二度とって言いました?言いましたね?」

  黒魔術師「は?」

  修道士「もともと呪いを解く方法を教えるつもりで狂戦士に武力で解決することの厳しさを解いたのですね…素晴らしい」

  狂戦士「そうなのか?それはすまなかった…」

  黒魔術師「お前何者だ?」

  修道士「彼のスポンサーです」

  黒魔術師「スポンサー?」

  

  こそっと二人で話し合う修道士と黒魔術師

  

  修道士「いいですか、あいつは本気で魔王を倒し、呪いを解こうとしています」

  黒魔術師「アホなの?」

  修道士「アホはアホでも戦士としては他の追随を許さない圧倒的な力を持ったアホです」

  黒魔術師「やっかいなアホだな」

  狂戦士「今アホって聞こえたんだけど?」

  修道士「とにかく、彼はみっちゃんにかかった魔王の呪いを解こうと躍起なのです」

  黒魔術師「みっちゃんて誰だよ」

  修道士「知りませんよ」

  黒魔術師「知らないのかよ」

  修道士「いいですか、本気になったアホがもし、本当に魔王を倒したとしたら…国民栄誉賞どころの騒ぎじゃありません。あなたの魔法だって誰もが認め崇拝されるべき魔術として後世語り継がれるのです」

  黒魔術師「そんなうまい話が合ってたまるか」

  修道士「あるんです。あなたは90%の平凡な人で10%の利益を受けるべきか、10%の成功者で90%の利益を得るべきか…それは、行動次第なのです」

  黒魔術師「…条件がある」

  修道士「なんでしょう?」

  黒魔術師「本当にお前たちが強いか試し、俺が認める強さであれば教えよう」

  修道士「結局戦いじゃないですか」

  黒魔術師「俺とは戦わない。奴がビフォーブリッジ王国の聖騎士(パラディン)に勝利したら、だ」

  修道士「聖騎士、ですか」

  黒魔術師「あいつは俺の魔術を唯一跳ね除ける。今の時期王国は闘技場で武道大会を始める頃だろう。そこでそいつをエントリーすればいい。奴は必ず決勝で待っている」

  修道士「ま、多少の経験値にはなるでしょうね」

  黒魔術師「それともうひとつ」

  修道士「まだあるんですか?」

  黒魔術師「偉大なる黒魔術師としての献金、教会からもしっかりと出してもらうぞ」

  修道士「…まぁ、いいでしょう(再び小銭を出す)」

  狂戦士「話はついたのか修道士」

  修道士「ええ。まずはビフォーブリッジ王国で武道大会のエントリーをしましょう」

  狂戦士「呪いを解く方法は⁈」

  修道士「狂戦士、物事には手順というものがあります。呪いを解く方法はいずれ教えてあげると契約しました。武道大会は魔王を倒す一歩なのです」

  狂戦士「さすが修道士」

  黒魔術師「ホントに利用しがいがあるな」

  修道士「さあゆくのです。聖都、ビフォーブリッジ王国へ!」

  

  ナレーション「この番組はヨーデル教とご覧のスポンサーの提供でお送りします」

  

  黒魔術師「何だこの声は」

  修道士「スポンサーですから」

  

  *シーン5 聖都ビフォーブリッジ王国

  

  品のある宮廷音楽が流れ、右大臣と左大臣が書物を持ちながら会話している

  

  右大臣「今年の武道大会も精が出ますなぁ」

  左大臣「王の御機嫌をとるには丁度良い見せ物よ」

  右大臣「しかし、今年もあの聖騎士が優勝してはつまらぬ」

  左大臣「実につまらぬ。あやつより強い者も想像できんが」

  右大臣「そこでだ左大臣」

  左大臣「なんだ右大臣」

  右大臣「今年からは王国以外の者でも出場許可を出す事にした」

  左大臣「それは面白い。さぞ田舎者が溢れかえるだろう。オススメはいないのか?」

  右大臣「まあ、一人…狂戦士が」

  左大臣「狂戦士…」

  右大臣「なんでも、魔王を倒し魔王の呪いを解く為に参加したとか…」

  左大臣「懐かしいな。若い頃にはやれ魔王を倒せだ呪いを解くだと騒いだ時期もあったが…」

  右大臣「今となっては死語そのものだ。チョベリグでナウなヤングがディスコでフィーバーするのと同じ」

  左大臣「だがなぜ武道大会に?己の実力を試すつもりか?」

  右大臣「それもあると思うが、呪いを解くためにはまず聖騎士を倒さねばならない、と」

  左大臣「聖騎士が?奴が解く方法を知っているとでもいうのか?」

  右大臣「どこからそんな情報が出たのかは知らんが」

  左大臣「何れにせよ、王の名の元に魔王を倒せば好都合。民衆の支持は上がるだろう」

  右大臣「王家の繁栄の為、駒になって貰おうぞ」

  

  右大臣、左大臣去る。それを盗み聞きしていた聖騎士登場

  

  聖騎士「そんな…私は魔王のことなど何も知らないのに。大臣の奴ら…そもそも怪我をしたら保険が下りるから武道大会に出ているだけなのだ。大金を貰うほどの大怪我を負うには強い相手と戦わねばならぬ」

  侍女「聖騎士様…どうかお怪我はなさらぬよう…」

  聖騎士「(侍女の話を聞かず)この顔に傷ひとつ付けてみろ。いくら保険が下りてくるだろう…」

  侍女「聖騎士様…あなたの大事なお身体に傷がついたら、私めは辛うございます」

  聖騎士「私は国のために戦うのが勤め。傷も勲章というが、私は未だ無傷…」

  侍女「聖騎士様…」

  聖騎士「この身傷つき朽ち果てるまで、この国に尽力致そう」

  侍女「素敵…」

  聖騎士「狂戦士、貴殿の強さは私の保険に値するか、臨むところだ」

  

  聖騎士が優雅に去って行く。それを見て追いかける侍女

  

  兵士が数人現れ、民衆がそれを取り囲む。

  

  兵士1「報せである。王の命により、今年の武道大会は王国の者以外の参加も良しとする」

  

  盛り上がる民衆

  

  兵士2「静まれ。此度のエキシビションマッチは前年優勝者、聖騎士と戦ってもらう」

  兵士1「大会の前座に相応しい猛者を騎士団は求めている」

  兵士2「この中に猛者を知るものはおるか?」

  

  黙りこむ民衆

  

  兵士1「おらぬのか。ふ抜けたヤツらだ」

  

  民衆から一人黒いローブを纏った男が現れる。

  

  黒魔術師「おります。ええ、おりますとも」

  兵士2「なんだと?…貴様、見ない顔だな」

  黒魔術師「見ないも何も、元は宮廷魔道士として仕えた身。貴様ら野蛮な兵士たちに顔を知られていては困るであろう?プライバシーとか、個人情報とか」

  兵士1「ほう。言うな。その薄汚い化けの皮を剥いでやろうか?」

  黒魔術師「(杖を構えて)偉大なる黒魔術師に刃向かうのなら王の叱責より深い天罰をくれてやっても構わんぞ」

  兵士2「(兵士1を制し)ここは決闘ではない。退け」

  兵士1「…で、貴様が前座を務めるのか?」

  黒魔術師「俺が?馬鹿言っちゃいけないよ。狂戦士、魔王の呪いを解こうとする戦士がいる」

  

  魔王の呪いという言葉にザワつく民衆

  

  兵士1「魔王の呪いだと?馬鹿馬鹿しい。呪いを解こうと魔王に挑む者は呪いにかけられ二度と戻ってくることはないというのに」

  兵士2「本当に魔王を倒すつもりなのか?」

  黒魔術師「ああ。ミイラ取りがミイラになることを覆そうとしている。そんなぶっ飛んだ奴が聖騎士様のお相手になるなら盛り上がるだろう?」

  兵士2「それは一理あるが…」

  

  民衆が再び盛り上がる

  

  黒魔術師「無論、奴は相当強い」

  

  更に盛り上がる民衆。狂戦士コールがけたたましく響く

  

  兵士1「…わかった。ならば当日、狂戦士を連れて来い。もし連れてこなかったら、貴様の首が跳ねると思え」

  黒魔術師「跳ねるのは聖騎士の体だがな」

  兵士2「これより、今年の武道大会エキシビションマッチは狂戦士をエントリーする。異論はないな?」

  民衆たち「異議なーし!」

  兵士1「…ところで何故貴様はその狂戦士を知っている?」

  黒魔術師「優秀な魔術師にはそれなりの護衛が必要だからな」

  兵士2「どうも魔術師の言葉は信用ならんが…まあいい」

  

  兵士たちが去っていく

  

  黒魔術師「勝敗なぞどうでもいいが、俺が偉大な魔術師であることには変わりはない。部下としてしっかりアピールするのだ、狂戦士…」

  

  不敵な笑みを浮かべる黒魔術師

  

  

  *シーン6 武道大会

  

  実況「さあ!今年も始まりました武道大会!王国の強さを直に見られるこの闘技場は満員御礼、大歓声に包まれております。尚、今年は王国以外の者も参加できるという異例の大会。果たしてどうエキサイトしていくのか見ものです!それではエキシビションマッチと行きましょう。まずは挑戦者、今大会初出場を果たし魔王の呪いを解き、魔王打倒を宣言する者、狂戦士の登場です!」

  

  歓声に包まれながら狂戦士が出てくる

  

  実況「えー、彼にはなんとヨーデル教のスポンサーがついており、そして偉大なる黒魔術師の部下であるという情報が入ってきました。」

  狂戦士「いつ部下になったんだ?」

  実況「えー今大会も生中継でお送りします。狂戦士さん、意気込みをお願いします!」

  狂戦士「みっちゃんのためなら死ねる」

  

  歓声が湧き上がる

  

  実況「おーっとここで愛人に向けて熱い一言!彼の情熱の炎は消えることを知りません!では続いて、前大会優勝者かつ3年連続優勝、向かうところ敵なし。我らが王国の盾、聖騎士の登場です!」

  

  更に湧く歓声に加え黄色い歓声が混ざる

  そのホームグラウンドに包まれ、聖騎士が出てくる

  

  実況「見てください!この勝者の品格!傷一つつけない彼の身のこなしが物語っています!チャンピオンに意気込みを語っていただきましょう」

  聖騎士「この純白の鎧が彼の血で赤く染められてしまうと思うと哀しいものだ」

  

  女性客の歓声がより一層強まる。動物園の熱帯の鳥コーナーのようだ

  

  聖騎士「お前は愛する者のためになぜ戦う?」

  狂戦士「俺は戦いしか、表現できない」

  聖騎士「ならば、その力で私に傷をつけてみよ!」

  

  刃と刃がぶつかり合う。

  

  実況「おーっと!ほぼ同時に剣を抜き刃を違えました!両者とも戦々恐々、会場は熱狂に包まれております!」

  

  聖騎士「確かに一撃は重い。だが、かわせばなんてことは無い」

  狂戦士「…」

  

  バックスタンドに修道士と黒魔術師がいる。

  

  修道士「(聖騎士を見て)よく喋りますね」

  黒魔術師「お前に言われたくないな」

  

  その時、狂戦士が聖騎士の背後をとる

  

  実況「あーっと!これは?!」

  

  トドメを刺さない狂戦士

  

  聖騎士「なぜ、トドメを刺さない?情けもなにもないだろう」

  狂戦士「お前をここで倒すことと、みっちゃんを救うことと関係があるなら容赦無く薙ぎ倒す。俺はお前に勝てとだけ言われた」

  聖騎士「そうか、関係か…関係があればいいのだな?」

  狂戦士「…潔く負けを認めるがいい」

  聖騎士「お前みたいな強い奴が!私の体に傷をつけ、痛めつけないといけないんだよ!」

  狂戦士「え?」

  実況「え?」

  会場にいる人達「え?」

  聖騎士「私以上の力を持った者が現れるのを何度待ち侘びた事か…いいか、勝者と敗者。私達は今まさにこの関係だ!早く煮るなり焼くなり好きにしろ!」

  狂戦士「なんで?」

  聖騎士「そうやって私を焦らすんだな?私の目的から遠ざけようと立ち塞がるのだな?」

  実況「パ、聖騎士…初めての敗北で取り乱しているのでしょうか?」

  聖騎士「私はお前の一撃を受け、保険金を貰うまでつけ狙うからな!暫し勝利の余韻に浸るがいい…」

  

  会場を去る聖騎士

  

  狂戦士「えー…?」

  実況「そしてこの捨て台詞!エキシビションマッチは番狂わせの新星、狂戦士が勝負を制しました!私も若干取り乱しておりますが、多大なる拍手を!あ、座布団は投げないで下さい!」

  

  とりあえず拍手をする観衆

  

  実況「さて、気を取り直して挑戦者・狂戦士を倒せる者はいるのか?」

  

  風のように挑戦者たちが狂戦士に向かってくるがそのまま流れるように倒されていく

  

  実況「いません!狂戦士、強い!強すぎる!ちなみに決勝戦ですが、相手が棄権した為、不戦勝で狂戦士の優勝です!今年の武道大会は狂っております!誰も彼を止める事は出来ません!とりあえず表彰しちゃいましょ!」 

  

  素早く表彰式が終わると、黒魔術師と修道士が狂戦士のもとに駆け寄る

  

  黒魔術師「いやー、見事見事」

  狂戦士「目的は果たした。魔王の呪いを解く方法を教えろ」

  黒魔術師「あぁ、あれね。魔王の呪いってさ、相当な魔力が要るし、伝授は出来ないんだよ」

  狂戦士「なんだと!」

  黒魔術師「待って待って。だから、俺もその魔王退治についてってあげるからさぁ…ね?」

  修道士「やはりペテン師でしたか。愛や祝福とは程遠い」

  黒魔術師「守銭奴の修道士さん、今から魔術でその口をひん曲げてもいいんですよ?」

  修道士「心まで黒いとは。私の癒しの力で浄化してあげましょう」

  狂戦士「…わかったから、ついてくればいいだろ」

  黒魔術師「はーっ世の中、力あるものには逆らえないねぇ」

  修道士「仕方ありません。あなたが剃髪して邪念を捨てるまで見てやりましょう」

  黒魔術師「勝手にしなよ」

  聖騎士「待て」

  

  聖騎士登場

  

  狂戦士「またお前か」

  聖騎士「言っただろう。お前をつけ狙うと。私は魔王には興味無いが魔王を倒そうとする、力ある狂戦士には興味がある」

  狂戦士「…協力するなら、魔王を倒した後考えなくもない」

  聖騎士「フ…そうこなくてはな」

  修道士「いいですか、貴方達スポンサーは私ですからね。常にヨーデル教がバックにいることをお忘れなき様」

  

  ナレーション「この番組は、ご覧のスポンサーの提供でお送りします」

  

  ファンファーレが鳴る

  

  *シーン7 虚無デコレーション

  

  スタッフたちがセットや撮影機材を組み立て、本番に向けての確認をしている

  

  スタッフ「キャストの皆さん入りまーす!」

  

  狂戦士、修道士、黒魔術師、聖騎士登場

  

  スタッフたち「おはようございまーす」

  修道士「今日はよろしく」

  スタッフ「メイク、小道具チェック!」

  

  メイク、小道具係が狂戦士たちのチェックをする

  

  スタッフ「照明、音響チェック!」

  

  照明と音響のテストが入る

  

  スタッフ「OKでーす」

  プロデューサー「本番!5、4、3…」

  

  修道士「我々は必ず魔王を倒します。職を失った戦士達。呪いにかかった者たち。魔王の負の遺産を払拭する日がきたのです。私達はこの世界を豊かにしたい!それは心だけではありません。多くの雇用を、仕事に見合う賃金を!豊かにしなくてはなりません。虚無の誰かに頼るのではなく、自分自身の手で勝ち取る。その力を分け与える業を我々は背負っています。豊かさとはそういうものではないでしょうか?」

  黒魔術師「皆が一緒だと誰かが怠ける。だから競争があり、上と下が存在する。今は上に這い上がる力も、下で積む忍耐も擦り切れている。誰も彼も余裕がない。何故か?自分だけで精一杯だからだ。余裕とは想像する視野を増やす。君たちは今のその先を見つめているか?ちゃんと周りが見えているか?」

  聖騎士「人は自らより大きな壁に当たって、等身大の自分を知る。背伸びせず、着飾らず、醜態を晒したそのままの自分。見栄を張って逃げてはいないか?ありのままを受け入れることは、自分の汚い部分を認めることだ。誰だって嫌なことではある。しかし、それを受け入れた者は強い。弱点がない。その者が信念を持って成し遂げることの偉大さを貴方達は知ることになるだろう」

  狂戦士「みっちゃーん!必ず魔王を倒して、呪いを解いてあげるからねーっ!」

  

  カメラのフラッシュがたかれ、決めポーズをとる4人

  

  プロデューサー「カット!オーケー。一発オーケーよ!」

  スタッフ「本日の撮影終了でーす!お疲れ様でした〜!」

  

  片付け始めるスタッフ

  

  修道士「魔王の居場所の電話が殺到しているみたいですよ。なんでもコウズケノクニという古い国家の跡地に魔王が眠る洞窟があるとか」

  黒魔術師「どんな情報源だ。なんだかんだみんな魔王に詳しいじゃんか」

  修道士「多少の宣伝効果はあったにせよ、それだけ呪いにかかった者の苦しみは消えないのでしょう」

  聖騎士「ところで、お前達も魔王と戦うんだろうな?力量を計りたいのだが」

  黒魔術師「ぎくぅ〜。聖騎士様には到底及びませんが多少の魔術なら…」

  聖騎士「確かにお前の魔力では私に保険が下りないが、微弱ながら貴重な戦力だ。(修道士を見て)お前はどうなんだ?」

  修道士「私は…まあ見る限り貴方方のような武闘派ではないので、せいぜい祈りの力で加護できるぐらいでしょうかね」

  聖騎士「回復役がいるのは心強い。それなら前線には出るな。援護を頼む」

  修道士「…あなた、もしや魔王との戦いで保険が下りると思っているのですか?」

  聖騎士「勿論。国からの直々の要請に応えなければなるまい」

  修道士「あなたのハイリスクハイリターンは真似したくありませんね」

  聖騎士「黒魔術師と同じようにちまちま小遣い稼ぎでもするがいい。私は名誉ある稼ぎ方をする」

  黒魔術師「けっ」

  狂戦士「金の話は済んだか?コウズケノクニに向かうぞ」

  

  去っていく狂戦士一行

  

  スタッフ「魔王様スタンバイ入りまーす」

  

  スタッフたちが魔王の居城のセットを用意する

  魔王の秘書が腕時計を見ながら指示を出す

  

  秘書「…残業だけはやめてほしいですね」

  

  中央に配置された豪勢な椅子に座る

  

  秘書「(魔王の声で)我は魔王。崩壊を司りし者。全ては生まれ、全ては滅ぶ。終わりは始まり。始まりは終わり…」

  

  戦士達の亡霊が渦を巻く

  

  秘書「ここの花はこの洞窟にしか咲かぬ。貴様らは闇に生きる高等な花を毟る冒険家の如く、

  この聖域に踏み込むのなら、容赦はしない!(素に戻り)ヨッ 魔王様!万歳!…こん

  なかんじかな」

  スタッフ「場当たりのテープ、貼った方がいいっすかね?」

  秘書「貼っときましょ。久しぶりの登場でやや緊張気味ですし」

  スタッフ「そっすね」

  秘書「(腕時計を見て)そろそろ頃合ですかね。じゃ、よろしくお願いします」

  

  椅子のとなりに立つ秘書

  

  *シーン8 魔王の呪い

  

  椅子の傍に佇む秘書の前に狂戦士たちが現れる

  

  秘書「お待ちしておりました」

  狂戦士「魔王はどこだ?」

  秘書「そう簡単に会えるとお思いですか?如何にも呪いにかかりにきたとでも言わんばかりのあなたに…アポなし訪問とはいい度胸です」

  狂戦士「待っていたんじゃないのかよ!」

  秘書「待っていたのはあなたではありません。その純黒たる野心と己の損得で動くあなた達…お待ちしておりました」

  黒魔術師「その言い方、ちょっとイラッとくる」

  秘書「あなた達三人は魔王を倒そうなんて微塵にも思っていないのは重々承知です」

  修道士「まあ、下手な争いは好まない主義ですし」

  秘書「だからこそ、御忠告しておきます。仲間割れはやめましょう」

  聖騎士「なぜお前がそんな忠告を?」

  秘書「それは、これから分かります。では陛下、ご登場願います」

  

  秘書が深々と頭を下げ、魔王が現れる

  

  黒魔術師「…これが、魔王?」

  狂戦士「…みっちゃん?」

  3人「みっちゃん?」

  狂戦士「なんでみっちゃんがこんなところにいるんだよ、もー!」

  魔王「我は魔王。崩壊を司りし者。全ては生まれ、全ては滅ぶ。終わりは始まり。始まりは

  終わり…」

  狂戦士「なに言ってんの?みっちゃんでしょ?」

  聖騎士「どこからどう見たって魔王だろう」

  狂戦士「いや、みっちゃんでしょ!」

  修道士「仮に魔王がみっちゃんだとして、これ以上呪いにかかることがないよう魔王にトドメを刺さなければいけませんが?」

  狂戦士「みっちゃんにトドメなんてさせないよ!こんなに可愛い角なんて生やして」

  黒魔術師「じゃあみっちゃんにかかった呪いはどーすんだよ」

  狂戦士「みっちゃんが魔王なら自分から解いてくれる…」

  黒魔術師「なに言ってんだこいつ」

  修道士「ほっといてさっさと魔王を倒しちゃいましょ。スキをついて黒魔術師は呪いを解く詠唱を始めてください」

  狂戦士「みっちゃんを殺す気か?」

  修道士「殺すもなにも…魔王を倒し、呪いを解くのが我々の旅でしたが。今から覆すと言うのですか?こんなにお金をかけて!何も無かったと!」

  黒魔術師「何のためについてきたか分からなくなる…出世計画もパーなんて最悪なんです

  けど」

  聖騎士「お前は戦いでしか表現出来ないと言った。違うな、ただのふ抜けだ」

  秘書「まあ、こんなところですよ、魔王」

  魔王「我は一つも呪いなぞかけたことは無いが…」

  秘書「ここ数十年でそういう悪い噂が立ってるんです。無意識に呪いにかかっておかしくなる連中や、何かにつけて魔王の呪いのせいにしたりとか」

  魔王「全く、人騒がせだな」

  

  魔王を無視し喧嘩を始める4人

  

  

  魔王「ここでも崩壊とは…」

  秘書「さすがです、陛下」

  魔王「目に見えぬものを信じ、視覚化できるように色眼鏡を作るとこうなる」

  秘書「その通りです、陛下」

  魔王「これこそ、生まれてきた者達の呪いそのものだ」

  秘書「呪いとは…都合の良い言葉ですね陛下」

  魔王「こうしてまたさまよえる亡霊が増えて行くのだ…」

  

  ぐるぐると周りを回る狂戦士一行

  

  照明フェードアウト。テレビを見ているみっちゃんだけが映し出される。

  

  みっちゃん「あたしのこと魔王だと思ってんの?」

  秘書「思っていますよ」

  みっちゃん「何よそれ」

  魔王「我がみっちゃんなら、貴様が魔王になればいい」

  みっちゃん「なんで私が?」

  

  狂戦士が現れる

  

  狂戦士「出たな、魔王!」

  みっちゃん「魔王?」

  狂戦士「覚悟しろ。お前を倒して呪いを解くんだ」

  みっちゃん「は?」

  狂戦士「呪いを解いて、またみっちゃんとモンスターハンティングデートするんだ!」

  みっちゃん「…あんたまだそんなこと覚えてんの?」

  狂戦士「そんなこと?かけがえのない思い出だ!」

  みっちゃん「だいたいあんたねぇ、あんたはあんたの思うみっちゃんしか愛してないわけ?」

  狂戦士「なんだと?」

  みっちゃん「みっちゃんはね、あんたに呪いをかけたの。あたし以外を愛せなくする呪い」

  魔王「魔王の呪いは楔そのもの。実体のない名前…」

  みっちゃん「私は魔王と契約したの。どうしてもあんたをあたしのものにできないかって。

        でもね、ここにたどりつくまであなたは呪いを解くことで必死だった。」

  魔王「崩壊と、再生…」

  みっちゃん「あたしが魔王に見えるのは、その呪いの代償ね…」

  魔王「繁栄と衰退…」

  みっちゃん「あたしが呪いを解いてあげる。『隣の客はよく柿食うかく(噛む)…」

  

  強大な爆発音とともに世界は一度壊れていき、そして再生される

  

  ナレーション「その後、世界は静寂に包まれた。静寂こそが、真の平和である。これが、かつて存在した世界の断片なのだ」

  

  いままで出てきた登場人物が一般人として普通に生活している姿が描かれる

  

  その中央にみっちゃんが佇む。ケータイが鳴り、通知を見る。そして走り出す。

  

  【幕】