SEASON!

【あらすじ】

ゼウス公認の冥府の妻になったペルセポネ。水仙の花を詰んでいたらあれよあれよと冥界へセカンドバッグのようにお持ち帰りされてしまいました。

それを知った母デメテルは激昴し、冥府の王ハデスに娘を返せと要求します。しぶしぶペルセポネを地上へ返す際、彼女にザクロの実を渡したハデス。

『冥界の食べ物を口にすると冥界で暮らさなければいけない』

そんな約束を知ってか知らずか、ペルセポネは空腹に耐えかねてザクロの実を4粒食べてしまったのです。


なんということでしょう!


ペルセポネの心と体は4つに分かれてしまいました。

焦るハデス、さらに怒るデメテル、のんきなゼウス…そしてペルセポネは天界に戻るのか、それとも…

 【登場人物】

 

 (ハデス)…冥府の王、ゼウスの兄。愛するあまりペルセポネをお持ち帰りしてしまったがゼウス公認。義母のデメテルにかなり嫌われている様子

 

 (ペルセポネ)…冥府の妃となるコレー。父ゼウス、母デメテルを親に持つ。冥界でハデスが優しくしてくれたので母との間で揺れてる様子

 

 (デメテル)…豊穣の女神。ゼウスの妻。コレーとハデスは不釣り合いな為、結婚は絶対認めない。母の愛が強すぎる様子

 

 (ゼウス)…天界の最高神。ハデスの弟、デメテルの夫。他にも不倫やできちゃった婚やもう数人の妻がいるため、今回の件もなんとかなるだろ精神の様子

 

 (ヘルメス)…天界の使いっ走り。デメテルの命令でハデスにペルセポネを地上に返すよう交渉しに来た様子

 

 (ケルベロス)…ひとつの体に3つの頭を持つ冥府の番犬。ハデスのペット。ペルセポネの事は気に入ってる様子

 

 『4人のペルセポネ』

 (ハル)…ペルセポネに近い性格。天然でおっとり

 (ナツ)…ゼウス似の性格。豪快で大ざっぱ

 (アキ)…デメテル似の性格。強情で潔癖

 (フユ)…ハデス似の性格。無口でおとなしい

【本文】

 

 ~冥界~

 

 

 ヘルメス「あぁ〜っ!あぁ〜っ!ヤバいっすよ!マジヤバですよ!え?何がヤバいって?俺見ちゃったんすもん!(小声で)あの冥府の王ハデスがわざわざ地上に出てきて、コレーをお持ち帰りコース!ひゃ〜〜!あのハデスが?あのハデスが?」

 

 ハデスがヘルメスをにらみつける

 

 ヘルメス「あっ、すんません…だってこう、コレーが水仙を詰んで家に持ち帰ろうとしたら逆にハデスにお持ち帰りだなんて…」

 ハデス「うまいこと言うな」

 ヘルメス「そりゃあ!だって、セカンドバッグのように小脇に抱えるなんてやっぱりゼウス様とやはり兄弟というか、でもやり口がこう…ハッハッハ」

 ハデス「ハッハッハ」

 ヘルメス「…」

 ハデス「…なんだ」

 ヘルメス「…なんでもないです」

 ペルセポネ「父様母様は何と?」

 ヘルメス「いや最高神はサムズアップしたんですけど、デメテル様が…」

 ペルセポネ「母様が?」

 ヘルメス「サムズアップした親指を強く押し戻しました。激おこです」

 ハデス「激おこ?」

 ヘルメス「絶対許さない。結婚は認めない。おのれハデス冥界に堕ちろって」

 ハデス「ここ冥界なんだが…」

 ペルセポネ「でも、ハデスさん。お父様から話は通してあるんでしょう?」

 ハデス「そのはずだが…」

 ヘルメス「いや、それが…(携帯の音)あぁ天界からです。はい、ヘルメス。あ!ゼウス様!」

 ハデス「代われ」

 ヘルメス「あっオイラの携帯」

 

 

 ~天界~

 

 ゼウス「もしもーし!おおハデスか!楽しやってるか?んん〜?」

 デメテル「あなた」

 ゼウス「あぁ、デメテルにはよく言っとくよ。うん」

 デメテル「(携帯を無理やり奪って)ハデス!あんた私の娘を地上へ戻さないと、地上の作物全て成長を止めてやるから覚悟しろ!」

 ゼウス「えっ」

 デメテル「そうすれば生き物も神も飢え死んでさぞかし冥界は忙しくなるでしょうねぇ!」

 ゼウス「デメテルそれはちょっとやりすぎ」

 デメテル「あなたは黙ってて!」

 ゼウス「はい…」

 デメテル「私がヘルメスを遣わしました。ヘルメスが帰ってくるまで作物の成長を止めます。あなたの誠意を私に見せてください(携帯を切る)」

 

 ~冥界~

 

 ハデス「…」

 ヘルメス「これ絶対デメテル様に言ってないっすねゼウス様」

 ハデス「言おうが言わまいがこうなることはなんとなく予想がついていたが」

 ペルセポネ「私、戻った方がいいよね…?」

 ハデス「ペルセポネ…」

 ケルベロス「くぅーん…」

 ハデス「ケルベロスが俺以外にこんなに懐いたのはそなただけだ。…寂しいが仕方があるまい。迷惑をかけた」

 ペルセポネ「いえ、私も急でびっくりしただけで…」

 ヘルメス「じゃ、行きますか」

 ハデス「待て、ペルセポネ。これをきみに」

 

 ザクロの実を渡す

 

 ペルセポネ「ザクロ…?」

 ヘルメス「ハデス様まずいですよ!」

 ペルセポネ「不味いの?」

 ハデス「味は保証する」

 ヘルメス「絶対食べちゃダメですよ」

 ペルセポネ「それじゃあハデスさん、短い間でしたがお世話になりました…」

 

 ヘルメスに連れられ手を振るペルセポネ。

 手を振り返すハデス

 

 ケルベロス「…いい娘じゃねーか」

 ハデス「急にしゃべるな」

 ケルベロス「旦那も大胆な事するよなぁ…『冥界産の食べ物を口にすると冥界で暮らさなければいけない』なんてルール、ここで使うとは」

 ハデス「…あの子は必ず帰ってくる」

 

 ~地上~

 

 ヘルメス「へー、そうなんだ」

 ペルセポネ「父様があんな性格でしょ。母様は私一人しか産まなかったし、ヘラおば様もいるし、愛人がマイヤ、メティス、セメレ、レト、アプロディテ…」

 ヘルメス「ま、オイラもその愛人の子の1人らしいんすけど…」

 ペルセポネ「神じゃなければ表に出られないわ」

 ヘルメス「デメテル様は娘思いの母親じゃないすか?」

 ペルセポネ「我が子だからって特別扱いし過ぎよ。私の為に世界の命に関わるストライキなんて」

 ヘルメス「愛が強いっすね〜」

 ペルセポネ「ハデスさん…なんだかんだ優しかったわ…ヘルメスちょっと」

 ヘルメス「あぁ、はいはい。ここで待ってますんで」

 

 ヘルメスから離れるペルセポネ。

 

 袋からザクロの実を取り出す

 

 ペルセポネ「ちょっとぐらいいいよね。全部じゃないし」

 

 ザクロの実を4粒食べる

 

 ペルセポネ「んっ!んんっ!」

 ヘルメス「どうしたんすか?ニュムペーに耳の穴をふ〜されました?」

 ペルセポネ「違うわ!美味しいのよ!」

 ヘルメス「あぁ!!」

 

 ペルセポネ「あぁでもちょっと体が熱いわ。川辺で冷やしてもいいかしら?」

 ヘルメス「ちょっとコレー!?」

 

 小川に向かう為雑木林を歩くペルセポネ

 

 ヘルメス「ああまずい…まずいぞ…」

 

 しばらくしてペルセポネが4人になって帰ってくる

 

 ペルセポネ?「お待たせ〜」

 ヘルメス「ああダメだ。オイラ裁きの雷を受けてコレーが4人に見える」

 ペルセポネ?「何言ってんのよ、あんたがいないと帰れないじゃない」

 ヘルメス「は〜っ!ふぅ〜分かりましたよ!帰りゃいいんでしょ帰りゃ!」

 ペルセポネ?「変なヘルメス」

 

 ヘルメスの後ろをついてく4人のペルセポネ

 

 ~冥界~

 

 冥界を散歩するハデスとケルベロス

 

 ハデス「ふぅ〜ケルちゃんもうちょっとペース落とそうか?」

 ケルベロス「ヴヴヴヴヴヴ…」

 ハデス「速い速い!無理!」

 ケルベロス「わんわんわんわん!!」

 ハデス「ペルセポネがいないからってヤケにならんでも…」

 

 ハデスが携帯の着信に気づく

 

 ハデス「はい、ハデス…」

 ゼウス「ハーデース!!」

 ハデス「うるさい、いちいち声がでかい…」

 ゼウス「もう!ワシだって好きでうるさくしてるわけじゃない!!お前、娘に冥界の食べ物を渡したな?」

 ハデス「それが何か?」

 ゼウス「食べれば冥界で暮らさなければいけない…だったな?」

 ハデス「食べなきゃいい話だ」

 ゼウス「食べちゃったんだよ…」

 ハデス「そうか…」

 ゼウス「そうか…じゃない!娘が4人になっちゃったんだよ!」

 ハデス「そうか…え?」

 ゼウス「ワシの娘が4人に分裂しちゃったの!」

 ハデス「なんで?」

 ゼウス「ワシが聞きたいわ!兄弟とて、こんなドッキリを仕掛けるなんて…」

 ハデス「いや、俺は何も…」

 ゼウス「とーもーかーく!デメテルが泡吹いて倒れたんだ!今すぐ天界に来てくれ!それじゃ!」

 ハデス「…」

 ケルベロス「ゼウスがなんだって?」

 ハデス「天界に行ってくる」

 ケルベロス「えぇ?散歩はどうすんだよ?」

 ハデス「すまんが待っててくれ」

 ケルベロス「あぅ〜ん」

 

 

 〜天界〜

 

 4人になったペルセポネが好き放題している。申し訳なさそうに立ち尽くすヘルメス。その横で倒れたデメテルを介抱するゼウス。

 

 ペルセポネ?「いやだわ母様、私を見て倒れるなんて。私なんにも悪いことしてないのに」

 ペルセポネ?「よほどお怒りだったのだわ…」

 ペルセポネ?「父様、見て!あそこの花畑に蝶がいるわ!と思ったら雪が降ってきた!」

 ペルセポネ?「ヘルメス、ビクビクしてないで事の顛末でも話したらどう?」

 ヘルメス「はぁ…」

 ゼウス「冥界の実を食べたのは真か?」

 ペルセポネ?「ええ。何にも食べてなかったからお腹すいてたのよ。でも全部じゃないわ、ほら」

 

 食べかけのザクロの実を見せる

 

 ヘルメス「あの時の…!」

 ゼウス「あの時だと?」

 ヘルメス「オ、オイラは食べるなと言いました!」

 ペルセポネ?「食べたのは私よ」

 ペルセポネ?「お父様、ヘルメスは悪くないわ」

 ペルセポネ?「でもたった4粒しか食べてないのよ?」

 ペルセポネ?「やっぱり食べちゃ悪かったのかしら…」

 ゼウス「ああ我が子よ…『冥界のものを口にすると冥界で暮らす』というルールがあるのだ」

 ペルセポネ?「初耳だわ!」

 ペルセポネ?「どうして教えてくれなかったの?」

 ペルセポネ?「どうして?」

 ゼウス「いや、知ってる事かな〜と思って」

 ペルセポネ?「知らないわよ!」

 ゼウス「だが今回は異例だ。心と体が4つにはなったが、天界にいても何も問題が起きない」

 ヘルメス「いや、大問題ですよ」

 ゼウス「やっぱりそうなっちゃう?」

 ヘルメス「デメテル様、雷に打たれた木のような倒れ方してましたもん」

 ゼウス「そうだよなぁ〜めちゃくちゃ焦ってハデスに電話したからそろそろ来ると思うんだけど」

 ペルセポネ?達「ハデスさんが?」

 ゼウス「ああ」

 ペルセポネ?「ああどうしよう!おめかししなくちゃ」

 ペルセポネ?「ハデスさんて天界に来るの久しぶりじゃない?私、お花を摘んでこようかしら。きっと喜ぶわ」

 ペルセポネ?「母様…怒らなきゃいいけど」

 ペルセポネ?「いい機会ね。父様もハデスさんもちゃんと母様と私に説明するべきよ」

 ゼウス「ワシも?」

 ペルセポネ?「そうでしょ?」

 ゼウス「うう…」

 ヘルメス「なんかこの娘だけデメテル様に似てる」

 ゼウス「ところでお前達…いや、我が子よ。自分が4人に増えているのに気が付かないのか?」

 

 見合わせるペルセポネ?達

 

 ペルセポネ?「あぁーっ!?」

 

 ペルセポネ?「なんてこと…」

 ペルセポネ?「私が4人に…」

 ペルセポネ?「どうして?どうしてなの?」

 ペルセポネ?「元に戻れないのかしら?」

 

 ゼウス「ああ…いっぺんに話すとワシ、頭が痛くなってきた…」

 

 ハデス「…(ため息)相変わらずここは眩しすぎるな」

 ゼウス「ハーデース!遅いぞ!」

 ハデス「…距離ってもんを知らないのか」

 ヘルメス「ハデス様、まずいですよ!ザクロ食べちゃったんすよ!」

 ペルセポネ?達「ハデスさん!!」

 ハデス「わ!わわわわっ」

 ペルセポネ?「ハデスさん…お父様と交渉して私を連れ出したって本当ですか?」

 ペルセポネ?「ハデスさん、好きな花は何ですか?よければ摘みに行きましょうよ」

 ペルセポネ?「ハデスさん、これは冥界のルールなんですか?」 

 ペルセポネ?「ハデスさん、元に戻す方法ってあるんですか?」

 ハデス「ちょっとちょっといっぺんに喋らないで!落ち着いて…ペルセポネ」

 ゼウス「ペルセポネ?」

 ハデス「冥府の妃の名だ」

 ゼウス「ワシの娘、ペルセポネになったの?」

 ハデス「そうだ」

 ゼウス「ふぇ〜え」

 ペルセポネ?「ハデスさん、私その名前気に入ってるの。だけど、このままじゃあなたが混乱してしまう。だからまた、名前をつけてください」

 ペルセポネ?「私からもお願いします」

 ペルセポネ?「ハデスさん」

 ペルセポネ?「私も…」

 ハデス「ハル、ナツ、アキ、フユ…」

 ヘルメス「えぇ?」

 ハデス「デメテルが作物の成長を一時的に止めた事で季節が生まれた。だから君たちがその季節の名前になるべきだ」

 ゼウス「なるほどな、いや〜めでたしめでたし」

 デメテル「めでたくねーわ!」

 ゼウス「デメテル?!も〜起きないかと思って心配したぞ!」

 デメテル「ハデス…!」

 ハデス「デメテル、その…すまなかった」

 デメテル「約束は守ったみたいな顔してるけど私の娘、元に戻るんでしょうね?」

 ハデス「しかし我が妃は冥界のものを口にしたのだ」

 デメテル「うるさいわね!だいたいあんたが夫とコソコソ勝手に決めたことでしょうが!」

 ゼウス「だって怒るじゃん…」

 デメテル「怒るわよ!」 

 ゼウス「怒るじゃん…」

 デメテル「あぁ…我が子よ。あんなジメジメした冥界へ行かせてしまった母を許しておくれ」

 ハル「いいよ。だって冥界も花畑にすればいいのよ」

 デメテル「ああなんて優しい子」

 フユ「私もびっくりしたから…」

 デメテル「変な事されてない?」

 アキ「むしろ、優しくしてもらったわ。意外だけど」

 デメテル「優しく…?」

 ナツ「そうなのよ母様。結局私もザクロ食べちゃったし、冥界で暮らしてもいいかな〜って」

 デメテル「なんですって…?」

 ゼウス「娘もそう言ってるんだからさぁ〜」

 デメテル「あなたは黙ってて」

 ゼウス「はい」

 デメテル「ハデス、あんたと私の娘はオリンポスがエーゲ海に沈もうがタイタンがガイアを破壊して大地が裂けようが相応しくないと思ってる」

 ハデス「そりゃどうも」

 デメテル「1年猶予をあげる。元に戻らなかったら、ありとあらゆる植物を枯らして何を食べても空腹する体に変えてやるわ。最期に自分の体を食べてしまえばいい」

 ヘルメス「こっわ」

 ハデス「仕方ない。俺がペルセポネに相応しい冥王であることを証明できるのなら」

 デメテル「何その名前」

 ハデス「冥府の妃の名だ」

 デメテル「あ〜もう!何もかも好き勝手に…」

 ハデス「しばらくは冥界で預かるぞ」

 デメテル「ヘルメス」

 ヘルメス「あっはい」

 デメテル「定期的に監視してちょうだい」

 ヘルメス「了解っす」

 デメテル「(4人を抱きしめ)我が子よ…」

 ペルセポネ達「大丈夫よ、母様…私、きっと元に戻るわ」

 ハデス「では参ろうか、ペルセポネ」

 

 両親に手を振るペルセポネ

 

 ゼウス「…一目惚れだったそうだ」

 デメテル「あなたと一緒じゃない。いじわるで強引で…」

 ゼウス「ワシには劣るがな」

 デメテル「…」

 ゼウス「…」

 

 ~冥界~

 

 ハデス「(ため息)…どうしよう」

 ケルベロス「おかえりハデスおかえり…?」

 ハデス「すまんな、今は構ってやる元気がない」

 ケルベロス「え〜なんでなんで?ペルセポネは?」

 ハデス「あぁ戻ってきた…が」

 

 遅れてペルセポネ達がやってくる

 

 ナツ「ケルベロス〜!久しぶり!あぁ〜可愛い」

 ケルベロス「…」

 ハル「もふもふもふもふ」

 ハデス「よかったな、ケルベロス」

 ケルベロス「いや待て待て(匂いを嗅ぐ)増えてる?!」

 ハデス「増えてる」

 アキ「ハデスさん、私…いや、私たちこれからどうしたらいいの?」

 ハデス「ちょっと聞きたいことがある。集まってくれ…ほら、君も」

 フユ「…」

 ハデス「ザクロの実を食べる前、正直どんな気持ちだったんだ」

 ペルセポネ達「…」

 ハデス「大丈夫、何か言ったからって怒ったりとって食おうとはしない」

 ペルセポネ達「…」

 ハデス「わかった。俺式でマンツーマンの面接をする。待ってる間はケルベロスと遊んできなさい」

 ケルベロス「やったー!」

 ハデス「ハル」

 ハル「私から?」

 ハデス「ついてきなさい。ケルベロス、任せたぞ」

 ケルベロス「はーい。ねぇねぇ何して遊ぶ〜?おいかけっこする?」

 

 ハル「(ハデスの後ろを歩きながら)ハデスさん」

 ハデス「なんだ?」

 ハル「どうして私が1番に?」

 ハデス「君は花のことばかり考えている」

 ハル「うーん、そうかもしれないわね」

 ハデス「俺が君を見た時もそうだった」

 ハル「それだけ?」

 ハデス「ああ」

 

 ハデス「さて、ここら辺でいいか」

 ハル「柘榴の木…」

 ハデス「正直に聞く。君は天界に戻りたいかそれとも…」

 ハル「冥界には花は咲いてないの?」

 ハデス「えっ?」

 ハル「母様が見たら悲しむわ。冥界も花でいっぱいにしなくちゃって、初めてここに来た時そう思ったの」

 ハデス「ああ…」

 ハル「ハデスさん、こんな薄暗く殺風景なところで暮らすよりもここをお花でいっぱいにしましょうよ。そうすれば死者たちも安心して眠れる」

 ハデス「そ、そうだな」

 ハル「だから、私はザクロの実を食べた。冥界に行く理由があるわ」

 ハデス「天界に戻らなくていいのか?」

 ハル「天界には母様がいるからいいでしょ?」

 ハデス「そうか…わかった。ナツを呼んできてくれ」

 ハル「分かったわ」

 

 入れ替わりにナツが入ってくる

 

 ナツ「ハデスさん!」

 ハデス「次は君の番だ」

 ナツ「どうして私が2番目なの?」

 ハデス「なんというかその…好意的だからだ」

 ナツ「なるほど。最初だとびびっちゃうってことね」

 ハデス「単刀直入に聞く。君は天界に戻りたいかそれとも…」

 ナツ「私、冥府の妃になるんでしょ。じゃあ冥界にいなきゃダメに決まってるじゃない」

 ハデス「ペルセポネ…」

 ナツ「父様にわざわざ了承して私を攫っていくなんて…よっぽど好きってことでいいのよね?」

 ハデス「ああ…」

 ナツ「初めてなのよ。初めてだから衝撃を受けたの。だから私もその好きを返さなきゃ…ね」

 ハデス「いや、突然攫ってすまなかった…神として恥じる行いだ」

 ナツ「いいのよ。父様なんかしょっちゅうだし」

 ハデス「…アキを呼んできてくれ」

 ナツ「ええ」

 

 入れ替わりにアキが入ってくる

 

 アキ「私が最後では?」

 ハデス「君は私を疑っているから最後にしなかった」

 アキ「…そうね。分からないのよ、天界に戻っても冥界に残っても…」

 ハデス「どうしてザクロの実を食べたんだ?」

 アキ「知らなかったのよ、こうなるなんて…ただ、お腹すいてたの。ここに無理やり来てから何も口にしてなかったし」

 ハデス「そうだったのか、すまなかった」

 アキ「一度、天界に戻った方がいいのかもしれない。ハデスさん、あなたの好意は嬉しいけど、あなたがした行為は正直許せないの」

 ハデス「あまりにも一方的だった」

 アキ「分かってるならどうして!?あなたも父様も一緒なの…?」

 ハデス「俺は…」

 アキ「そう…わかったわ。最後の一人を連れてくる」

 

 入れ替わりにフユが入ってくる

 

 ハデス「君は天界に戻りたいと考えているのか」

 フユ「…」

 ハデス「母が心配か」

 フユ「…確かに母の事は心配です。地上を荒廃しかねませんから。ただ、あの時」

 ハデス「あの時…」

 フユ「私、怖かったんです。なにか悪いことをしたのではと…冥界に無理やり行かなければいけなかったんだと」

 ハデス「…怖い思いをさせたな」

 フユ「だからザクロの実を食べた時、ちょっと安心してしまったんです…」

 

 ~天界~

 

 デメテル「ほーらやっぱり!」

 ゼウス「待て待て。娘だって乗り気のやつがいるぞ」

 デメテル「たぶらかされてるに決まってるじゃない。我が子は迷っているのよ…ヘルメス聞こえてる?」

 ヘルメス「(電話で)ええ、聞こえてますよ」

 デメテル「結局戻りそうなの?」

 ヘルメス「いやそれがっすね、えーっと…」

 デメテル「えーっと何よ?」

 ヘルメス「結構仲良くなってるっていうか…」

 ゼウス「なんだハッピーエンドじゃないかアッハッハッハッハ〜!は〜終わり終わり」

 デメテル「どこがハッピーなんです?」

 ゼウス「二人が幸せならそれでいいじゃないか。な?」

 デメテル「な?じゃないでしょ!」

 ゼウス「すまんすまん。解決にはなってなかったな」

 デメテル「ヘルメス、ハデスに伝えて。期限を半年にするわ。今からありとあらゆる作物を枯らすからよろしく」

 ゼウス「やりすぎやりすぎ」

 デメテル「こうでもしないとズルズル長引くでしょ」

 ゼウス「悪かったよ…」

 デメテル「ホントに分かってるか怪しいわね。訂正、あと1ヶ月」

 ゼウス「あー!あー!地上の生き物が死ぬ!わかった!孫が見たいとか言わないから!」

 デメテル「孫…?」

 ヘルメス「1ヶ月っすね、了解っす〜(電話を切る)」

 デメテル「…」

 ゼウス「孫が見たいとか言わないから…」

 デメテル「孫ねぇ…」

 ゼウス「見たくないの?ワシとデメテルの…かーわいいぞー」

 デメテル「なんでよりによってハデスの子なのよ〜!あんまりだわ!冥府は暗くて死人が彷徨い、生命のエネルギーを微塵にも感じられない、闇だけが体を包み底なしの川が流れ…」

 ゼウス「まあそういうトコだし」

 デメテル「あなたは!可哀想とか!大変だとか!思わないわけ?」

 ゼウス「いや、まぁ…」

 デメテル「子供には苦労させたくないに決まってるじゃない!私豊穣の女神なのに!」

 ゼウス「デメテル…あの子も神の子だ。きみに仕事があるように、あの子も仕事がある。見守るのが親の務めではないか?」

 デメテル「きっかけはあんたらでしょうが…はぁ…ああダメ。クラクラしてきた」

 ゼウス「やば…」

 

 デメテルがパッタリと倒れる

 地上から悲鳴と怒号が呻きあう

 

 ゼウス「まずい…ハーデース!、今回の主役はお前に譲るから何とかしてくれ〜!」

 

 

 〜冥界〜

 

 ハデス「何とかって言われても…」

 ケルベロス「わかった!ぼくの頭をもう1匹増やせばいいんだ!」

 ハデス「うーん…」

 

 ペルセポネ達「ハデスさん…」

 ハデス「すまない、今回の一件は俺が…」

 アキ「ねぇ、謝ることばっかりであなたの意見を聞いてないわ」

 ナツ「そうそう!好きなのは分かるけどさ〜」

 フユ「どうして私を選んだのか…」

 ハル「私じゃなきゃダメだったのか…?」

 ケルベロス「可愛いからに決まってんじゃん」

 アキ「本当にそれだけ…?」

 ナツ「それだけならこんなことしないもんね〜」

 ハル「だってまだ言わてないから…」

 フユ「あなたの…プロポーズ」

 ハデス「…!」

 ペルセポネ達「聞きたい!どうして私なの?!」

 

 黙り込むハデス

 冥界が警察の取り調べ室のようになる

 

 ペルセポネ達「なんで黙るの?」

 ハデス「ああちょっと…!待って!待ってくれ!」

 フユ「…言えないことなの?」

 アキ「ふーん…」

 ハデス「あーもう!変に解釈しない!」

 ナツ「この際さ〜隠すことないって」

 ハル「…冥界を花畑にしたいからではなさそうね」

 ケルベロス「うーわ、めっちゃ焦ってる」

 ハデス「久しぶりに地上に出た時だった。君が水仙の花とニュムペー達に囲まれて遊んでいたのを見た。天界ではなく、地上で生命と戯れている君を見て眩しく見えた。神は、空の上で生命を容易く操るが君は君自身は生命と直に触れ合うことができる。この娘なら冥界で死した命を慈しんでくれる…そう思ったのだ」

 ペルセポネ達「私にできるかしら…?」

 ハデス「できるさ。そして冥界にも花畑を作ろう」

 ナツ「なーんだ、ちゃんと理由があったのね」

 アキ「だからって無理やり連れてかなくても…」

 ハデス「ゼウスはともかくデメテルが断固拒否するだろうと思って」

 フユ「確かに母様は仕事上断るでしょうね」

 ナツ「うーん、ハデスさん。ちゃんと母様に謝った方がいいと思う」

 ハル「その前に、そこに行きましょうよ。私とハデスさんが初めて出会った場所」

 ハデス「何だと?」

 ケルベロス「おでかけ?おでかけ?」

 アキ「…そこでやり直しましょう」

 フユ「もう一度そこであなたの気持ちが聞きたいんです」

 ナツ「そうと決まれば外よ!行きましょ!!」

 ハデス「えっちょっ…待って!」

 ナツ「待つわけないでしょ!」

 

 ケルベロス「また留守番〜?」

 

 ついていこうとするヘルメスを引き留める

 

 ヘルメス「あーなになに?せっかくいい所なのに!」

 ケルベロス「何言ってんだい。きみもここでお留守番だよ」

 ヘルメス「おいらは犬に構ってるヒマはないの!」

 ケルベロス「グルルルルル冥府の番犬がここを通すわけにはいかぬ!」

 ヘルメス「トホホ〜!今まですんなり通してたでしょー!」

 ケルベロス「問答無用!アォーーーン!」

 ヘルメス「ぐぬぬぬぬ…おいら、戦いはすきじゃあないんすけどねぇ…」

 

 ケルベロスとヘルメスの間で激しい攻防が続く

 

 ~地上~

 

 ハル「着いたわ!」

 ナツ「ハデスさんはやく〜」

 ハデス「はぁはぁ…ペルセポネ…以外と足が、速いんだな…」

 アキ「ここは…」

 

 デメテルが仕事を放棄した為、草花が枯れ果てている。鳥のさえずりも聞こえず無音な世界が広がっていく

 

 フユ「なんて酷い…」

 ハル「鳥も虫も花の声すら聞こえない…」

 ハデス「…」

 ナツ「まるで冥界みたい…」

 アキ「でもその命をすくいあげ、元の場所へ戻すのがあなたの仕事…」

 ハデス「そうだ。悲しんではいられない、次の命の為に…」

 ハル「また咲くはずよね?」

 ハデス「ここからやり直そう。季節を巡らせ、生命を芽吹き、咲かせ、実らせ、未来の種を繋ぐため」

 

 

 跪くハデス

 

 ハデス「あなたを妃に迎え入れたい」

 

 手をとるペルセポネ達

 

 ペルセポネ達「喜んでお受けしましょう。冥府の王ハデスよ、ここに誓います」

 

 光が溢れ、ペルセポネ達の体を包む

 

 ハデス「ペルセポネ!」

 ペルセポネ「ありがとう、ハデス…」

 

 

 暗転

 

 

 ~天界~

 

 ヘルメス「はーい号外号外〜天界タイムズの号外っすよ〜!見出しは『冥府の妃がデメテルの一人娘?!』」

 ゼウス「うん、よくできてるじゃないか」

 ヘルメス「あ!ゼウス様も1部どうっすか?」

 ゼウス「そうだな1部ではなく、地上と冥界にも配ってくれ」

 ヘルメス「そうっすね」

 ゼウス「ペルセポネ、元気にしてるかな〜?ワシなんてこの前好きな子が出来ちゃって牛になって追いかけたりしてな〜」

 ヘルメス「あんまり大きい声で言わない方がいいっすよ。コンプライアンスに引っかかったら大変ですから」

 ゼウス「人間はな、人間はだ」

 ヘルメス「いやいや神も一緒ですって」

 デメテル「ふぁあ…」

 ゼウス「おお!デメテル!起きたか!見ろ、このハデス渾身の土下座!よく撮れてるだろう!」

 デメテル「(新聞を見て)…豊穣の女神も心無しか落ち着いた表情で…」

 ヘルメス「なんか読まれるとむず痒いっす…」 

 デメテル「はぁー私も若い子見つけようかしら」

 ゼウス「えっ」

 デメテル「結局ペルセポネは毎年天界に帰省することを条件に冥界で暮らすことになったし、私の愛を注ぐ相手がねぇ〜」

 ゼウス「ワ、ワシじゃだめなのぉ〜?」

 デメテル「手当り次第に愛注いでるあなたに今更ねぇ〜」

 ゼウス「デメテル〜」

 デメテル「ヘルメス、その傷は?」

 ヘルメス「あ、ま〜いや、ちょっと…」

 ゼウス「デメテル〜!ヘルメスはワシのなんだこんだ息子だと知ってて!」

 

 

 ~冥界~

 

 冥府の玉座に座る二人

 その隣で眠るケルベロス

 

 オルフェウス「(琴を弾きながら)♪あぁ助けて下さい〜僕の彼女が〜誤って死んでしまったのです〜」

 ハデス「一度死した魂は知ってて来たのだな?」

 オルフェウス「無理を承知で〜お願いです〜彼女を冥界から連れ戻したいんです〜」

 ハデス「どう思う?」

 ペルセポネ「ここまできた勇気は賞賛します。今回の件はあまりにも呆気ないことも…あなたのその歌の熱意も」

 オルフェウス「それでは〜?」

 ペルセポネ「いいでしょう。ただし、決して後ろを振り返らないこと。いいですね?」

 オルフェウス「ありがとう〜ございます〜」

 ハデス「おい、いいのか?」

 ペルセポネ「ええ、ダメだとは思うけどやる価値はあるよ」

 

 オルフェウスが彼女を連れ、冥府を出ようとするが道に迷い、慌てて転んでしまった彼女を助けようと振り返ってしまう。すると、彼女と一緒に冥界から無数の手がオルフェウスを引き込む

 

 

 オルフェウスの彼女「振り返った、わね?」

 オルフェウス「あぁ〜!!!」

 

 

 ハデス「…ダメだったな」

 ペルセポネ「うーん、いい所までいったと思うんだけど。さて、次はどなた?」

 

 

 

 ー幕ー