【あらすじ】
先生、
あの季節はどうも人をおかしくさせます。
どうやらこの2人もおかしくなってしまったのでしょうか。
再会ってなんだか嬉しいような、時の流れが切ないような気がします
夏の終わりを繰り返しているようなそんな気分になるのです
【本文】
男「これは、忘れもしない夏。」
男「僕の元に1通の手紙が届きました。」
男「この手紙を読んで、僕は久しぶりに地元に帰ることを決意しました…」
男「手紙の内容は、こう書かれていました___」
女「あっ」
男「あっ…」
女「お久しぶりです」
男「どうも…」
女「最初、誰だか分かんなかった」
男「そりゃあ、もう卒業して何年も経ってるから」
女「じゃあ、今も続けてるんですか?」
男「まあ、ちょくちょくね…」
女「でもこっちに戻ってるってことは今日は休み…」
男「そんなとこかな」
女「もう、戻ってこないと思ってたから…」
男「いやいや、定期的にはこっちに帰ってきてるよ」
女「私、先生のお話もっと聞きたかったんです。あれからどうなったか、とか…」
男「んん…」
女「結局まだ発表してないじゃないですか!例のアレ」
男「それは、企業秘密というか…」
女「ここで話すのも何ですから、どっか喫茶店入りましょーよ」
男「えぇ…?」
男「喫茶店に入ると真っ先にアイスココアを頼みました」
男「毎回この店に入ると必ず頼むんです」
男「苦いのが飲めなくて。コーヒーや紅茶の方が安いんですけど」
女「今どき、手紙なんて…LINEで送れば早いんじゃないですかね?」
男「話に便利性を求めちゃだめさ。車がオートマティックに変わって、事故が増えたのも便利さの代償なんだから」
女「便利過ぎると事故るんですか?」
男「何事も気持ちが大事さ。きみはどうせ年賀状をプリントアウトした同じやつを複数送るんだろう」
女「年賀状なんてスタンプで送ればいいじゃないですか」
男「んん〜ッ」
女「ま、それくらい古い話なんですよね」
男「ジェネレーションギャップだなぁ」
女「でも私、ロッキード事件のことは知ってますよ」
男「その頃の話じゃないよ!」
女「舞台を観に来てくださいって連絡があったんです」
女「役者は客商売だから、他の人にも同じような内容を送ってると思うんですけど」
女「私は、久しぶりの連絡にちょっとどきっとしました。『私にも送るんだ』って。本当に来て欲しいかどうか、キャパ稼ぎかは分からないんですけど、1回は観たいと思ってしまったんです」
女「いつもは仕事だから来れないとか言ってやんわり断るのが大概なんですけど、その日たまたま仕事が休みになっちゃって。チャンスだと思いました」
女「その舞台のためだけに、都会へ足を運びました」
女「え〜?なんで誘ってくれなかったんですか?」
男「きみ、あの時バイトのシフトが入ってるって言ってたじゃないか」
女「言ってましたっけねぇ…」
男「でもいいのさ。こうして顔を合わせることができたんだから」
女「やっぱり、お芝居楽しいですか?」
男「うん」
女「いいなぁ〜でも、私には無理だなぁ」
男「どうして?」
女「私の性格的に続かないと思うんです。」
男「続けてみなきゃわからないよ」
女「養成所に行って分かったんです。技術の前に容姿とか気に入られるかとか、私達がどんなに足掻いても持ってるものが違うんですよ。努力が必ず報われるわけじゃない。ちっぽけなバイト代が飛んでいくだけ。それでも続けられるか、好きでいられるかって言われたら……」
男「うん、そうだよね。そういう世界だよね…」
女「その世界で彼は輝いていました。」
女「彼の所作や口の動き、表情をよく見ていた方だとは思うのですが、やはりしっかりと呼吸が出来ているのです」
女「とても綺麗な、最期でした」
男「別にプロじゃなくてもアマでもいいんじゃないかな」
女「私、地元の劇団に疎くて。幼なじみがアマチュアのミュージカルの劇団員なんですけど…私のやりたいことはそうじゃなくて」
男「今が全てじゃないさ。やれる道はいっぱい残ってる」
女「…未練がましいですよね。なんか。演劇部とか放送部があったらまた違う道にいたんだなぁとか思っちゃうんです」
男「演劇部や放送部には出来ない経験は最大の強みだよ」
女「そう思って、ずっとやってきました…」
男「ずっと前に2人で話したことがあります」
男「進路先の話をするのは意外というか、前の芝居で2人でいることに慣れすぎていたのかもしれません」
男「特に面白い話をするわけじゃなくて、淡々と道を歩いてぼーっと景色を眺めながら時間を過ごすのが贅沢な休日とさえ思いました」
男「彼女はプロットを並べて、次に書く作品のあれこれを話してくれました。まだ誰にも言ってないしSNSにも上げてないと言っていたのが本当かどうかは知りませんが。なんだか、新しい話が生まれる立会人になった気分で聞いていました。僕は頑張ろうと思いました」
女「でも私、続けていることがあって。今、書いてるんです」
男「えっ脚本?」
女「外部委託みたいなかんじで、それで、いくつか仕事を貰ったこともあるんですけど…」
男「いいじゃないか、脚本。どんなの書いてるの?人間ドラマ?それともファンタジー?」
女「SF…」
男「SF?」
女「日常に潜む奇妙を書きたいんです。舞台の非日常感ではなくて、日常と奇妙が混ざりあったような、それが当たり前であるかのような…」
男「それはSFだね」
女「好きなんです、SF」
女「男女芝居なんですけど、久しぶりに再会した2人から始まるんです。炎天下で蝉がジリジリ鳴いてて田舎道のアスファルトが陽炎に揺れて。周りの木々は日差しの強さで一層緑に輝いてて。」
男「うん」
女「暫く2人黙ったまま相手を見つめてるんです。『ここで会ったが百年目』みたいな、因縁の相手にバッタリ会ってしまったような、天敵の睨み合いなんです。」
女「久しぶり」
男「久しぶり」
女「戻ってきたんだ」
男「戻っちゃ悪いかい」
女「悪くは無いけど」
男「癪に障るかい」
女「障るわけではないけど」
男「相変わらずいけ好かないなぁ」
女「私に会いに来たわけじゃないから」
男「手紙が届いたんだ」
女「可哀想に呪いの手紙だ。お焚き上げしなきゃ」
男「また酷いことを言う」
女「酷い?酷いのはあなたという人間のことをいうのよ」
男「変わってないねぇ」
女「変わってたまるか」
男「でも出してきたのはきみだろう?」
女「だから、燃やせと言っただろう」
男「しょうがない人」
女「いじわるな人」
男「ねぇ幸せかい?」
女「幸せならこんなとこにいないよ」
男「ここは幸せじゃないのかい?」
女「幸せは遠くへ行ったさ」
男「きみは進んで不幸な道を歩いて不幸だ不幸だと喚く愚か者かい」
女「その不幸に不必要な幸せを持ち込むお前も愚か者だ」
男「おれたち愚か者同士なんだね」
女「馬鹿と愚か者を一緒にしないで」
蝉時雨が2人の天から注がれる
男「きみへの天罰だ」
女「おまえのせいだ」
男「まぁた人のせいにして」
女「本当のことを言ったまでだ」
男「でも、約束は約束だからな。この独り善がりめ」
女「安い愛情をティッシュ配りのようにばら撒く男に言われたくない」
男「そのティッシュを受け取りたかったくせに」
女「むかつく」
男「怒りの矛先が間違ってるんだって」
女「そうやって一生マウントをとりたがってろ」
男「『会いたい』って言ったのはきみのほうだ」
女「『会いたい』なんて一言も書いてない」
男「いいや、君の文章は回りくどいなぞなぞで出来てるのは承知の上さ」
女「終わりのない終わりにくだらないことをするんだね」
男「そのくだらないことを考えたのは紛れもなくきみさ。永遠にしてやろうか」
女「うるさい。その口、二度と聞けないようにしめつけてやる」
男「ああ、これがきみの終わりなんだね。幸せかい?」
女「聞くまでもない。黙ってろ」
女「その後、私の用事が出来てしまって。先生と別れました」
女「先生と会ってきて私の中で何かが変わったと思うんです。」
女「手紙を書くなんて、小学生の頃頻繁にやってたんですけど、今じゃめっきりやってなくて」
女「今って便利なんですね。本名と電話番号を入れるだけで住所と郵便番号がでてくるなんて。逆に怖いんですけどね、SNSに負けじと策をこうじてるんでしょう」
女「手紙の良さは、誰にも見られないところと2人だけの秘密感が増すような気がします。特別な気持ち、といいますか。一方的かもしれませんが密な関係になった気分でいます。ちょっと恥ずかしいです」
女「さて、本題に入りますが、今度舞台を立ち上げます。タイトルは『夏の終わりに』というオリジナル脚本です」
女「秋頃に公開予定ですが、是非1度足を運んで頂けたらと思います」
女「私、もうちょっと地元で頑張ってみたいんです。だから、その頑張りを観て貰いたくて」
女「公私ともに忙しいかと存じますが、また日程が決まり次第、電話で連絡しますので、何卒よろしくお願いします」
男「これは、忘れもしない夏。」
男「僕の元に1通の手紙が届きました。」
男「この手紙を読んで、僕は久しぶりに地元に帰ることを決意しました…」
男「手紙の内容は、こう書かれていました___」
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