Re:set

【introduction】

 その日、闇川善次郎は倒れていた。

 冬の夜雨にうたれながら。

 「なんで俺がこんな目に…」

 彼は目を閉じた。

 時計の針はまだ動いている。

 悲鳴のような銃声が響いた。

 これで何回目のリセットだろう。

【登場人物】

 闇川善次郎

 飯島リンネ

 田中タカヤス

 店員            

 店長        

【ワンルーム】

 女性がスマホをいじりながら誰かを待っている。

 窓の外は大雨だ。彼女は時折時間を気にしている。

 風呂場から男性がバスタオルで髪をかきあげ、上半身裸で入ってくる。

 

 女「終わった?」

 男「うん。もういいよ」

 

 女「傘買わなかったの?」

 男「そんな暇なかった」

 女「ねぇ、闇川くん」

 男「え?」

 女「そろそろなんか着たら?」

 男「あ…」

 

 バスタオルで体を隠す闇川

 

 女「…」

 男「ごめん、着替えが…」

 女「そこにある部屋着使って」

 男「ほんとごめんなさいありがとうございます」

 女「…どうしてこんなことになったの?」

 男「いや、実はさ。暗殺者に付け狙われて…」

 女「…」

 男「ほんとなんだって」

 女「よくそんなくだらない嘘を平気でつくよね」

 男「ほんとなんだ!」

 女「(間)大丈夫なの、それ」

 男「もしかしたら今もどこかで…」

 女「なんで警察に言わないの?」

 男「飯島みたいに信じてくれないから」

 女「ほぁ〜」

 男「まだ信じてないな?!次会うときは葬式になったらやだろ!」

 女「ねぇチャック閉めて!」

 男「…」

 女「分かったら、髪乾かしてさっさと帰ってくんない?」

 

 不意に飯島を抱きしめる闇川

 

 女「え…なんで?」

 男「…悪かった。後でかりんとう饅頭買っておくから」

 女「なんで?」

 

 颯爽と立ち去る闇川

 

 女「あ、傘…!」

 

 テレビからニュースが聞こえる(照明をフェードアウトしながら)

 

 『今日未明、路上で倒れている20代の男性が発見され病院に運び込まれましたが、まもなく死亡が確認されました。一昨日から行方不明になっていた闇川善次郎さんの身元と思われ、昨夜からの雨による低体温症と腹部には銃で撃たれた跡があり、警察は殺人の容疑で捜査を進めています…』

 

 【レーザービーム】

 

 部屋の片付けをしてる2人組。

 

 

 (照明フェードイン)

 

 

 店長「ふむ、こうしてみるとなかなか…」

 店員「そんなこと言ってないで手伝ってくださいよ」

 店長「外に本を出したの、あれ君か?」

 店員「古本屋にでも売ればいい金になるでしょ」

 店長「待て待て待ておかしいおかしい」

 店員「おかしいのは店長の趣味ですよ。全然読まないくせに。本だってね、読まれなきゃ売って誰かに読まれる方が幸せなんですよ!」

 店長「あれはインテリアだ!家具の一部だ!固定資産だ!」

 店員「これだからいつまで経っても物が増えるんです!」

 

 田中「あ、あの〜」

 店長「なんだね?ここはアイドルの事務所じゃないぞ?」

 店員「ちょっと!すいませんね〜今絶賛片付け中でして…」

 田中「噂には聞いてたんですけど…やっぱり、あるんですね」

 店長「何があるというんだ?」

 田中「はぐらかそうったってそうはいきませんよ。これなんて立派な銃刀法違反ですよ!」

 

 ダンボールの中にあるおもちゃの銃を取り出す

 

 田中「ちゅいーん、ぴゅんぴゅんぴゅんぴゅん」

 店員「お客様?」

 店長「それは…ロストテクノロジーで作られた、LOVEビーム!」

 店員「店長?」

 店長「貴様…一体何者なんだ?」

 店員「お客様?」

 田中「宇宙警察地球支部JAP担当、田中です」

 店員「田中様…ちょっといいですか?」

 田中「え?」

 店員「お会計ならこちらのカウンターでお願いします」

 店長「お買い上げありがとうございます」

 田中「違う!」

 店員「領収書は会社名ですか?前株ですか?」

 田中「買うとは言ってない!」

 店長「でも確かにお客様はちゅいーんと言ましたね?LOVEビームの短縮チャージ音とそっくりだ」

 田中「なぜあなた方が所持してるんです?」

 店員「なぜって言われても…」

 店長「まあ、レーザービーム売ってる店なんてどこにでもあるし」

 田中「私は一言もレーザービームとは言ってないが…?」

 店長「…」

 店員「店長?」

 田中「ちゅいーん、ぴゅんぴゅんぴゅんぴゅん」

 

 店長が銃で撃たれる

 

 店員「店長!!」

 田中「玩具とカモフラージュするには丁度いい」

 店員「あんた…宇宙警察じゃねぇべな?」

 田中「だったらどうする?」

 店員「どーするもこーするもねぇべや!」

 

 店員が隠し持ってた銃を田中に放つ

 銃声が田中を突き刺してカットアウト

 

 「GAME OVER」

 

 悲しげなBGMと共にカウントSEが鳴る

 

 「リトライしますか?」

 

 ブチッと音が切れ、ゲームの起動音が流れる

 

 

 【不自然なガール】

 

 降りしきる夜の雨。

 傘を持った飯島とレーザービームを持った店員が

 対峙する

 

 飯島・店員「あっ」

 飯島「それ…」

 店員「…」

 飯島「まさか、ね」

 店員「いやいや」

 飯島「ですよね…」

 店員「そうですよ」

 飯島「だって…」

 

 銃口を向ける店員

 飯島の後ろに田中がいる

 

 店員「そうですよねぇ?」

 

 レーザービームを放つが、すかさず傘で防がれる

 

 闇川「おい飯島〜」

 

 店員側から歩いてきた闇川に跳ね返った

 ビームが当たる

 

 闇川「きゃんっ」

 

 田中「ちゅいーん、ぴゅんぴゅんぴゅんぴゅん」

 店員「田中ァ!」

 飯島「闇川くん?!」

 田中「どうやら、この男のようだ」

 店員「じゃかしい!店長の仇!」

 飯島「あんたねぇ、人が死んでんのよ?!」

 店員「こっちは店長殺されてるんですよ!」

 田中「…また押したな」

 店員「あ?」

 田中「こっちの話だ」

 飯島「…」

 店員「なんで店長を殺した!」

 田中「殺した?君たちの商品じゃないか」

 店員「うるさい!」

 

 銃声が響く

 

 カットアウト。プチっと音が切れ、ゲームの起動音が鳴る。

 

 フェードイン。

 それぞれ場所が入れ替わっており、

 店員が倒れ、飯島がレーザービームを持ち、傘を持った田中の後ろに闇川が隠れている

 

 闇川「おい飯島〜そんな物騒なモン捨てろって!」

 田中「大人しくこちらに渡すんだ」

 飯島「…」

 闇川「飯島!」

 飯島「…どうしてこんなことになったの?」

 闇川「いや、実はさ。暗殺者に付け狙われて…」

 飯島「…」

 闇川「ほんとなんだって」

 飯島「よくそんなくだらない嘘を平気でつくよね」

 闇川「ほんとなんだ!」

 飯島「(間)大丈夫なの、それ」

 闇川「もしかしたら今もどこかで…」

 飯島「なんで警察に言わないの?」

 闇川「飯島みたいに信じてくれないから」

 飯島「ほぁ〜」

 闇川「まだ信じてないな?!次会うときは葬式になったらやだろ!」

 飯島「何回やってると思ってんのよ!てか、誰よそいつ!」

 田中「宇宙警察地球支部担当、田中です」

 飯島「警察!」

 闇川「無理あるだろ!」

 田中「立派な銃刀法違反だぞ」

 闇川「言ってること警察っぽいけども!」

 田中「ちゅいーん、ぴゅんぴゅんぴゅんぴゅん」

 闇川「あっ」

 

 闇川が倒れる

 

 田中「都合の悪いことを変えたいと思えば思うほど、過去になっていく。哀れな…」

 飯島「LOVEビーム!」

 田中「ちゃんとちゅいーんって言わなきゃ…」

 

 田中が倒れる

 

 

 飯島「終わった…?」

 

 

 【だいじょばない】

 

 部屋の片付けをしてる2人組。

 

 

 (照明フェードイン)

 

 店員「(ダンボールを運びながら)なんですかこれ、ちょ〜重いんですけど」

 店長「ワレモノ注意」

 店員「モノの名称を聞いてるんです!」

 店長「ひ・み・つ」

 店員「はぁ〜?」

 店長「店長にはぁ〜?って言わないの。ちょっと中身確認させて」

 店員「知らないんじゃないんですか?」

 店長「ふむ、こうしてみるとなかなか…」

 店員「そんなこと言ってないで手伝ってくださいよ」

 店長「外に本を出したの、あれ君か?」

 店員「古本屋にでも売ればいい金になるでしょ」

 店長「待て待て待ておかしいおかしい」

 店員「おかしいのは店長の趣味ですよ。全然読まないくせに。本だってね、読まれなきゃ売って誰かに読まれる方が幸せなんですよ!」

 店長「あれはインテリアだ!家具の一部だ!固定資産だ!」

 店員「これだからいつまで経っても物が増えるんです!」

 

 雨に濡れた飯島が入ってくる

 

 飯島「…」

 店長「…」

 店員「…」

 

 飯島「ここ、私の部屋ですよね…?」

 店員「え?」

 飯島「だって私の部屋でしょ?」

 店長「元・きみの部屋かもしれない」

 

 テレビからニュースが聞こえる

 

 『今日未明、路上で倒れている20代の男性が発見され病院に運び込まれましたが、まもなく死亡が確認されました。一昨日から行方不明になっていた闇川善次郎さんの身元と思われ、昨夜からの雨による低体温症と腹部には銃で撃たれた跡があり、警察は殺人の容疑で捜査を進めています…』

 

 店員「…」

 店長「(レーザービームをみて)うちの商品、返してもらえないか?」

 

 自分がレーザービームを持っている時に気づく飯島

 

 飯島「あ、傘…!」

 店員「あー、ハイハイうちの商品らしいですよ。初耳ですけど(レーザービームを取り上げ)」

 店長「まぁなんだ。こんな状態だけどお茶でも」

 飯島「…」

 店員「どうです?かりんとう饅頭。あったかいほうじ茶に合いますよ」

 飯島「…」

 店長「お名前は?」

 飯島「いいじま…りんね…」

 店長「そうなんだ?僕この店の店長やってるんだ〜」

 店員「すいませんね〜店長うるさくて」

 飯島「…それは何なんですか?」

 店長「 これね、レーザービーム。心を突き刺す道具だよ」

 店員「ストレートに言う」

 店長「うん。真っ直ぐな気持ちを届けるために作ったらしいよ。ただ、ロストテクノロジーでLOVEビームのボタンがあるんだけど、チャージ音が…」

 飯島「そうだったんですか…」

 店員「鵜呑みにしないでくださいね。十中八九冗談なんで」

 飯島「…」

 店長「だからよくもわるくも、心を突き刺すんだよ。生かすも殺すもきみ次第」

 店員「大丈夫なんですか、それ」

 店長「大丈夫大丈夫」

 店員「いや、全然だいじょばないから!」

 店長「飯島くん、結構やり直したね?」

 飯島「回数は覚えてないです…もうやめた方がいいんじゃないかって思ったりもしましたけど」

 店長「でも君がやらないと終わらないよ(レーザービームを渡し)」

 飯島「分かってます…」

 店員「なんかあったら言ってください。出来る限り協力します!」

 飯島「ありがとうございます」

 

 颯爽と立ち去る飯島

 

 店員「これでよかったんですかね〜?」

 店長「大丈夫でしょ…」

 

 部屋の奥から髪を乾かす闇川が出てくる

 

 闇川「あ、あの〜」

 店員「わっ」

 闇川「やっぱり出なくちゃダメですか?」

 店長「だ〜めっ」

 闇川「ですよね…」

 

 レーザービームを持つ闇川

 

 店長「さ、行ってこい」

 闇川「はぁ…」

 店員「はいこれ(かりんとう饅頭を渡し)」

 闇川「え、なんで?」

 店員「かりんとう饅頭」

 闇川「なんで?」

 

 フェードアウト

 

 【ディスコグラフィー】

 

 田中「雨も降らない。奴も来ない。絶好の機会だと思わんかね?」

 

 雷がゴロゴロなる。

 

 田中「待て」

 

 畦道の蛙が騒ぎたつ。

 

 田中「待て!この湿気は!」

 

 フェードイン

 

 田中「やはり運命に抗えないというのか!何千何万何億何兆やり直したってこの日は雨!!気圧のほんじなし!」

 

 ぴちょぴちょ小雨が降ってくる

 

 田中「ガッデム!」

 

 飯島「そう。今日はガッデムなのよ」

 

 レーザービームを持った飯島が歩いてくる

 

 田中「また君か…」

 飯島「あなたはこの時間の生き証人ね」

 田中「もういいよ。そんなのは」

 飯島「いいえ、今度は生かしてあげる」

 

 レーザービームを構える

 

 飯島「ちゅいーんぴゅんぴゅんぴゅんぴゅん」

 田中「おい、まさか…!」

 

 引き金が引かれる。が、何も起こらない

 

 飯島「玩具とカモフラージュするには丁度いい」

 田中「ほっ」

 飯島「あなたなんでしょ?」

 田中「俺は宇宙警察地球支部…」

 飯島「よくそんな嘘を平気でつくよね」

 田中「ほんとなんだ!」

 

 闇川「LOVEビーム!」

 

 田中が飯島の目の前で倒れる

 

 闇川「次は、上手くやるから…」

 飯島「待って」

 闇川「こいつが、狙ってた…暗殺者」

 飯島「待って!」

 闇川「何度やり直したってこの輪廻からは抜け出せられない。だったら、次の可能性を探すだけ」

 飯島「あなたは闇川くんなの…?」

 闇川「だったらどうする?」

 飯島「だってかりんとう饅頭買ってくるって約束したじゃん!」

 闇川くん「LOVEビーム!」

 

 飯島が倒れる。雨が本降りになっていく

 

 田中「…なんで俺がこんな目に」

 闇川「なんで、LOVEビームなのか分かる?」

 田中「…知りたくもない」

 闇川「心を突き刺す道具だからさ」

 田中「知る必要がない」

 闇川「ああ、あ。やることがなくなってしまった。誰かがもう一度押してくれれば、また元に戻るのに。こいつを殺してしまっちゃあどうにもならないか。虚しいなあ。虚しいなあ。だったら最初からリセットして上書きなんてしなきゃいいんだ。結局何もかも一瞬なんだ。この後のことなんて考えちゃいないんだから」

 

 闇川が自分の体を銃で撃ち抜く

 

 闇川「…なんで俺がこんな目に」

 

 倒れながらカットアウト。

 時計の針の音と心臓の音が重なっていく

 徐々に心臓音が小さくなっていき

 秒針音が大きく聞こえていく

 

 「GAME OVER」

 

 悲しげなBGMと共にカウントSEが鳴る

 

 「リトライしますか?」

 

 カウントSEがタイムアップを告げる

 

 店長「あ、終わった?」

 店員「もういいですよ」

 

 フェードイン

 

 店員「雨、止みましたね」

 店長「なんとか客が来ない間に片付いたな」

 店員「まあほとんど私が片付けたようなもんですけど」

 店長「君、ミニマリストじゃない?度を超えた断捨離力だし」

 店員「店長、虹…!」

 店長「人の話聞いてる?」

 店員「リセットした気分でスッキリしましたよね?」

 店長「あぁ…あのカオスな感じがいいんだよ。分からないかな〜?分からないよな〜?」

 店員「あ?じゃあ元に戻します?」

 店長「あっちょっ君!それ商品だってこと分かってる?」

 

 「カチ」

 

 店員「あっ」

 

 カットアウト

 

 幕。